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Business & Economic Review 1999年08月号

【論文】
電力自由化のコスト=ベネフィット分析-高まる電力需要管理の必要性

1999年07月25日 新美一正


要約

1980年代以降、世界的な民営化・規制緩和の潮流に乗って、それまで公的規制に従属してきた電力、電気通信等の公益事業分野においても、競争原理の導入を目的とした大規模な改革が行われるケースが目立つようになっている。わが国においても、95年に電気事業法が30年振りに改定され、一部電源に限って卸売電業務が開放されたのを契機に電力自由化を巡る論議が活発化している。昨98年5月には電気事業審議会が「小売り部分自由化」を容認する中間報告が発表されたが、自由化推進論者からは内容が不十分だという批判も提出されており、海外からの自由化圧力の高まりもあって、電力自由化論議はかつてない熱気を帯びたものとなっている。

電力自由化論が世界的潮流となっているのは、火力発電技術の成熟化に加え、小規模発電プラントの登場に代表される発電技術の進歩によって、事業の「自然独占性」が後退しつつある点が第一の要因である。加えて、公的規制が電力事業の経営にさまざまな非効率性をもたらすことも明らかになった。自由化はこれら非効率性を排除し、国民により効率的な電力供給システムを与えるメリットがある。一方、自由化先行国では、短期的な収益向上につながらない電源開発の回避や、燃料バランスの崩れによる環境負荷増大等のマイナスの影響も報告されている。これらが自由化のデメリットであり、自由化の是非は結局、両者のトレード・オフ関係を冷静に判断することによって決定されなければならない。

自由化先行国とわが国との決定的な違いは、前者が押し並べて電力余剰国であるのに対し、わが国が構造的電力不足状態にあることである。このため、上記のような自由化のデメリットはより顕著な形で現れる可能性が大きい。また、エネルギー輸入国特有の燃料価格の高さ等が新規参入を阻害するため、自由化の前提となるIPP(新規参入電力事業者)の育成についても相当なコスト負担が避けられないように思われる。一方、本稿で行った計測によれば、電力9社の経営非効率性はそれほど大きなものではないので、自由化のベネフィットには自ずから限界がある。以上を総合すれば、現時点で「電力完全自由化」の実現シナリオを描くことはかなり難しいといわねばならない。

むしろ、現時点における望ましい政策選択肢として、国民的コスト負担の対象を電力需要管理(DSM)に集中させることを提言したい。電力需要が抑制できれば、環境負荷や電源開発に関わるコストもそれだけ削減されることになる。これらは間接的にIPPの成長を促す効果を持つので、長い目でみれば電力自由化推進論の立場からもプラスである。

電力に限らず、エネルギー政策の変更は国民経済に多大な影響を与えるため、実施に当たっては国民的合意の形成が不可欠である。昨今の電力自由化論議において、自由化の必然的帰結であるユニバーサル料金体系の崩壊や電力料金の季節・地域的変動性の増大等の問題が真剣に論じられているとは思えない。まずは、自由化に関する正確な情報を国民に伝達することが急務である。
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