Business & Economic Review 1999年03月号
【PERSPECTIVES】
住宅減税見直しの必要性-消費対策の観点から
1999年02月25日 飛田英子
要約
景気の低迷が長期化するなか、住宅減税に対する関心が高まっている。これは、住宅投資のみならず、個人消費の回復の観点からも期待が膨らんでいるためである。もっとも、今回の改正された住宅減税は、住宅投資拡大のみを主目的としている。このため、短期的には住宅投資の拡大によって景気の下支えが期待されるものの、中長期的には個人消費の回復が実現されないことに加えて、住宅投資の反動減が生じる結果、減税が景気の下押し要因として作用する懸念が大きい。したがって、経済を安定的な成長軌道に乗せるためには、最大の需要項目である個人消費を本格的に回復させることが最重要課題であり、個人消費にとってプラスの環境を整備することは、景気の回復を図るうえで重要な意味を持つと判断ナきよう。
最近の家計実質消費支出の動きを住居の所有関係別にみると、住宅ローン返済世帯と借家世帯が大きな変動を繰り返す一方で、住宅ローンを抱えていない持家世帯(以下、ローンなし世帯)は相対的に安定している。もっとも、97年以降は3世帯とも大幅に落ち込んでいる。次に、居住サービス支出負担の可処分所得に対する比率を住居の所有関係別にみると、住宅ローン返済世帯と借家世帯が際立って高い。時系列的には、可処分所得の増加率が鈍化する92年以降一段と悪化している。
これら3世帯の消費構造を比較するために、選好パラメーター(相対的危険回避度と主観的割引率)の推計を行った。この結果、導かれるファクト・ファインディングスは以下の3点である。
・ ローンなし世帯は危険回避的であり、消費水準を一定に保とうとする傾向が強い。一方、他の2世帯は危険愛好的であり、環境変化に応じて消費水準を変動させやすい。
・ 将来を重視する程度については3世帯ともほぼ同じであり、家計は住居の所有形態や住宅ローンの有無に関係なく将来を非常に重視している。(1)と併せて考えると、97年以降全般的に消費が落ち込んだ背景として、中長期的なわが国経済の先行き不安や社会保障負担の増大等、将来の不透明感が強まったことを指摘できよう。
・ 住宅ローン返済世帯と借家世帯の消費構造は非常に似ている。ちなみに、住宅ローン返済世帯について年間収入階級別にブレイク・ダウンしてみた。これによると、いずれの階級も同水準の選好パラメーターが推計されたことから、同世帯の消費構造は収入の多寡に関係なくほぼ同じとの結果が得られた。
以上の分析結果をもとに、個人消費活性化に向けた住宅減税のあり方を考察すると、以下の通りである。
・ 住宅ローン返済世帯に対しては、減税期間の恒久化、適用期間のローン返済期間全体への延長、減税対象のローン返済世帯全体への拡大等、住宅減税のさらなる拡充である。これにより、恒常所得の増加を通じた将来不安の緩和が期待される。なお、今回導入が見送られた住宅ローン利子の所得控除については、ローン返済世帯の消費構造が収入の多寡に関係なく同じであることを考えると、消費対策の観点からは税額控除より望ましいといえよう。
・ 借家世帯に対しては、住宅ローン返済世帯と同様の対策の実施である。具体的には、家賃の一定割合の控除等が考えられる。
・ ローンなし世帯に対しては、老後の所得補填策のひとつとして、リバース・モーゲージの普及促進が求められる。