Business & Economic Review 1999年02月号論文
【論文】
新年世界経済の展望-グローバル・クライシス回避に向けて
1999年01月25日 調査部
要約
1998年の世界経済を振り返ると、アジア通貨危機がロシアや中南米に伝播し、世界的にデフレ圧力が高まるなかで、好調を維持したアメリカは世界経済の下支え役を担った。そのアメリカでも、秋に金融システム不安が台頭し、世界的信用収縮に発展するリスクが高まった。Fedの機動的対応により同リスクはひとまず後退したものの、アメリカ金融市場の随所で混乱の爪痕を確認できる。
99年を展望すると、各国とも新興市場の通貨・経済危機の影響が残存するもとで、景気減速傾向を一段と強める公算が大きい。とりわけ、アメリカでは実質経済成長率が96~98年にかけての3年連続の+3%台という高成長から+1%台後半に一気に低下し、世界経済に対する牽引力は大幅に減退することが見込まれる。
それに加えて、世界経済は99年に、アメリカ発および中国発の2つの新たなグローバル・クライシスに直面する可能性がある。まず、アメリカ発のリスク・ファクターとしては、(1)中南米市場の再混乱、(2)ヘッジファンドの損失拡大、(3)株価暴落、等が生じた場合には、信用収縮問題が再燃する公算が高まる。そうなれば、ドルの信認が低下し、世界のマネーフローの萎縮につながる可能性がある。
次に、中国発のリスク・ファクターとしては、中央・地方政府間の確執が指摘される。これによって海外からの信認が低下し、外国資金が流出した場合、金融システム不安、ひいては人民元切り下げに発展する可能性を否定できない。そうなれば、香港ドルのドル・ペッグ離脱をはじめとして、東アジア全体の通貨が再び混乱に見舞われ、国際金融システムは壊滅的打撃を受けるとともに、世界的なデフレ・スパイラルに拍車をかける恐れがある。
こうしたグローバル・クライシスが進行すれば、最悪の場合、世界各国で保護主義が台頭し、世界経済のブロック化および経済活動の縮小均衡を招きかねない。このような事態を回避するためには、各国間の政策協調がかつてないほど重要であるとともに、危機防止および危機の早期収拾に有効な新たな国際金融システムの構築が不可欠である。
以上のような新年の世界経済の姿を踏まえると、日本として取り組むべき課題は、まず何よりも自国経済の早期再生である。日本経済の持ち直しがアジアひいては世界経済に決定的に重要な状況下、日本は国際的な責任を果たすためにも、戦後最悪の不況から脱出する必要がある。そのうえで、アジア諸国が現在取り組んでいる金融システム改革への支援を行うとともに、国際通貨としての円の機能性を高め、東アジア諸国の為替リスク軽減とアジア通貨の安定に貢献すべきである。