コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 1999年02月号

【論文】
事例から検討する「食糧・農業・農村基本問題調査会」最終答申と今後の農政改革

1999年01月25日 大澤信一


要約

去る98年9月17日「食料・農業・農村基本問題調査会」の最終答申が提出されたが、その内容は具体性と理解しやすさに欠けている。その原因は、21世紀の日本の農業がどのようなプロセスで形成されていくのか、とりわけ、そこで企業がどのような役割を果たすのかについて具体的なイメージ構築がなされなかったためと考えられる。

ある農産品加工メーカーは、生鮮トマトの販売を新規事業として推進している。この事例から、多様な日本農業の困難性を打破するには、異分野企業からの新しい視点の導入が必要なことが理解できる。

多様な日本農業の困難性を打破するには、異分野企業からの新しい視点の導入が必要なことが理解できる。

しかし、この市場を世界的な農産品加工メーカーの視点からみると、マーケティング、生産効率、物流効率の点から抜本的な改革の余地が具体的に確認できる。

この事例を手がかりに日本の野菜市場全体の再検討を行う。するとそこでもマーケット、生産施設、物流において、極めて大きな改善余地が残されていることが明らかになる。
1. 日本の野菜マーケットにおいては提供されている品種の選択肢が少なく、栄養成分の低下兆候があり、価格変動が大きいなどの問題がある。
2. 生産施設においては、従来の日本の施設園芸が、国際標準に遠く及ばない非効率的な施設で農業生産を行っていたことが判明してきた。
3. 物流では、本格的な物流投資によって小売価格が25~30%削減可能であることがこの事例のみならず、世界的な青果物メジャー企業によっても指摘されている。
4. 1~2を総合すると日本の野菜市場は抜本的効率化で大きな市場創造の潜在力が認められる。

さらに iii に示した抜本的効率化の可能性は、この市場の周辺で事業を行ってきた、総合商社、メーカー等多くの新規参入企業によっても認識されている。

これらの事例分析から基本問題調査会の最終答申を再検討する。


基本的視点

従来、企業が参入してこなかった日本の農業分野は企業参入によって大きく効率化し、現在の閉塞状況を打破できる具体的な可能性が確認できる。この具体的な可能性を前提に日本農業の再生検討を行う必要がある。4論点の再検討


4論点の再検討

1. 国内の農業生産を基本に、日本の食料安定供給を目指していく大原則は設定可能である。この結論は野菜・青果農業の事例より帰納要約されたものであるが、この部分は日本農業に最大の比重を持つこと、および現在の最重要な問題は市場原理で運営できる農業とその他の農業の区分作業であることから、このような結論抽出の手法は十分な妥当性を持つと考える。

2. 食の外部化が進行するわが国では自給率向上は、単に農業政策としてでなく、食ビジネス全体の産業政策として中長期的に検討・研究する必要性が高まっている。また飼料作物の自給率向上は、国内飼料を利用する高付加価値畜産品の開発、グローバルな食糧問題、農業地域のゼロエミッションの実現など、21世紀の視点から再検討する必要性が高まっている。

3. 株式会社の条件付き農地所有認可は速やかに実現されることを期待する。

4. 中山間地への直接所得補償導入は、食料・農業・農村の現場に広範なビジネスの自由度が確保されることが前提条件であろう。



5つの提言

1. 新しい農業基本法の第1フェーズ(5年程度)を21世紀日本農業の潜在力確認の期間と位置付け、農業生産と「農」関連ビジネスの相互乗り入れ・融合を積極的に推進すべきである。この潜在力確認作業を行わない限り、どのような農業政策も砂上の楼閣となると言わざるを得ない。

2. 1 の新しい農業創造を推進するに当たり、障害となり得る各種の規制は、縦割りの行政機構を横断的に再検討し、緩和していくべきである。例えば、施設園芸における温室や農地に併設する直売所の建築基準などは早急に再検討すべきである。

3. 99年以降、各地域自治体において「農」を核とした新しい地域振興を、行政の縦割りを排除して開始すべきである。これは、行政改革や地方分権の具体的な嚆矢ともなり得る作業である。

4. 食料自給率向上の問題は、現状の縦割り行政機構の狭間にある重要問題のテストケースと位置付けるべきである。官公庁横断型のタスクフォースを編成し、新しい農業基本法にとらわれることなく、実質的な問題解決を図り、その知見の中から21世紀の行政手法を模索、提案すべきである。

5. 農業の企業化推進、高付加価値アグリビジネスの創造推進のため、各種の農業関連リスク管理に本格的に取り組むべきである。例えば、農業生産者に対する販売代金回収リスクについての普及、教育活動や、米を始めとして高付加価値農産物の生産に必要となる、契約栽培方式定着のための先物市場整備等について本格的に取り組むべきである。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ