Business & Economic Review 1999年02月号
【MANAGEMENT REVIEW】
アジア総括と展望(98-99)後編-拡大ASEAN、その他アジアの動向
1999年01月25日 林志行、平塚英子
要約
拡大ASEANは、表面的にはASEAN10カ国がまとまりを見せるものの、昨年の指摘通り、経済圏内部が二つのミニ経済圏(「イスラム経済圏」「新生バーツ経済圏」)の形成に向けて、統合と分散を繰り返す傾向が顕著となる。
「イスラム経済圏」の成立のきっかけは、インドネシア暴動とスハルト前大統領の退陣である。しかし、暫定政権である「ハビビ大統領」が6カ月という短期間に国家の体質(スハルト色)を変革できず、いたずらに大統領選出システムを先送りしようとしているため、再び暴動が発生した。
「新生バーツ経済圏」は等身大のビジネス・システムの確立を目指すタイ国が、アジア通貨危機をきっかけに、周辺諸国との関係改善と新たな枠組み作りを目指すものであり、イスラム経済圏とは一定の距離を保ちながら、自らの生産性を向上させるためのインフラ整備を進めるものである。
「イスラム経済圏」と「新生バーツ経済圏」は、ある意味で「拡大ASEAN経済圏」の中での「保護貿易的な」内向き投資システムであり、広域ではあるものの閉じた世界が形成されようとしている。このため、拡大ASEAN経済圏をつなぎ止めていた「ASEAN産業協力計画」(AICO)等の域内優遇政策は、ASEANが二分するなかで機能不全に陥る可能性が高い。
ASEANにおける「ミニ経済圏」へのシフトは、第二次大戦以降の「民族」「宗教」「言語」の斑模様を修正する良い機会である。なお、ASEANが今まで通りの「一体感」を有するためには、「外国人労働者」の流動化を促進する「システム」を定着させる必要があるが、インドネシアでの暴動発生を契機に、異文化の流入に対する各国の警戒心が強く、難しい状況にある。
朝鮮半島では、韓国で金大中政権が誕生し、北朝鮮も実質的に金正日政権に移行したことから、対話の芽が出てきた。北朝鮮は、アメリカの過度の干渉を避けるため、核査察問題などで断続的に揺さぶりをかけるものの、南北朝鮮間での共同インフラ開発など、南の資金、技術と北の労働力、資源を有機的に活用した「ビジネス・システム」確立への期待は大きい。
南アジアでは、インドとパキスタンの危機的な対峙状況が解消される方向に向かっている。両国とも、不安定な政権基盤の中で各政党の意見を反映する必要に迫られており、政権の統一性の象徴として、民族・宗教を前面に押し出そうとしている。このため、状況によっては、カントリー・リスクの上昇が懸念される。