Business & Economic Review 2000年10月号
【PERSPECTIVES】
東アジア経済展望-危機の負の遺産を超えて
2000年09月25日 調査部 鈴木大洋
要約
深刻な経済危機に見舞われたタイ、インドネシア、韓国、マレーシアなど東アジア各国は、1998年末をボトムに、V字形の急回復を遂げた。各国政府は、経済危機の克服を宣言し、今後の経済運営に自信を深めている。しかしながら、各国別には、経済パフォーマンスの格差が拡大するなど、域内全体としては、まだら模様の残る回復過程となっている。
東アジア経済の先行きを展望すると、景気牽引力の衰え、危機の負の遺産、発展メカニズムに陰りという三つの懸念が指摘できる。景気回復色の強まりにもかかわらず、域内全体の通貨、株式市況が弱含みで推移しているのは、これらの懸念を先取りした結果であるとみることができる。したがって、東アジア経済が総じて堅調な成長軌道へ復帰したとみるのは早計であろう。
東アジアが持続的な回復軌道をたどるための必要条件は、(1)企業セクターの活性化を通じて、金融システム改革の総仕上げを行うこと、(2)東アジア域内の二極化回避に向けて、域内経済関係の強化を促進すること、であろう。とりわけ企業セクターの活性化には、抜本的な企業改革を避けて通ることができない以上、改革にともなう社会的な痛みを緩和するためにも、域内関係強化を通じた新規需要の掘り起こしが不可欠となる。
域内経済関係の強化に向けて日本に期待される役割としては、まず東アジア各国の輸出の受け皿となること、さらに日系企業のネットワークを媒介とする物流、金融、経営など各方面での均質化作用をもたらすこと、などが指摘されることが多いが、さらに、IT革命の域内への一段の浸透を積極的に支援し、域内経済の効率化、競争力の向上を促進することが喫緊の課題となっている。 一方、欧米企業がIT面での競争力を背景に世界マーケットでの主導的な立場を確立しようとしており、このままでは、日本および東アジア諸国は、世界市場だけではなく東アジア域内市場での優位性までも脅かされかねない状況にある。日本は東アジア各国とのIT面でのアライアンス強化を通じて、これに対抗することを戦略的なアジア外交の柱として位置づけるべきであろう。