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Business & Economic Review 2000年09月号

【OPINION】
今後の不振企業再建にむけてグランド・デザイン作りを

2000年08月25日 調査部 翁百合


わが国経済は、その再生に向けていよいよ最終局面に入った。一つの大きな問題はこれまで再建あるいは処理ができなかった負け組大企業をどうするのか、という点である。この点は、金融システムのみならず21世紀の日本経済全体を自律的な回復軌道に乗せるうえで極めて重要な点と言えよう。

その試金石となったのがそごう処理問題である。そごうについては7月12日自民党亀井政調会長の一言をきっかけとして、民事再生法にのっとった法的手続きによって再生が図られることとなった。当初そごうは、債権放棄によってリストラを図る再建計画が決まっていたが、預金保険機構による債権放棄が、「税金による私企業の救済につながる」という国民の批判を招き、政治的な決断がなされ、土壇場で覆された。民間企業と債権者の間でなされた任意の意思決定に、政治が介入したことについては大きな問題がある。また、三条機関であり、独立した政府組織として位置づけられてい驪燉Z再生委員会の決定を極めて不透明な手法で政治的に覆したことは三権分立の侵害ともいえる大きな問題といわざるを得ない。しかし、そごうの再生が民事再生法という法的処理に持ち込まれたために、今後不振企業に対して、中途半端なリストラ計画に基づく債権放棄、特に国に債権放棄を求めるような手法は容易には提案できなくなった。その結果、今後経営不振の企業の再生は、法的処理を含め、抜本的な処理が求められることは必定である。いずれにせよ、今回の民事再生法によるそごう再生案に至るプロセスを点検してみると、様々な問題を孕んでいることに気がつく。これらの点を総括し、今後の不振企業再建を展望して整理しておくことは、極めて重要であると思われる。

まず、当初の債権放棄案を預金保険機構が受け入れた点については、次のような問題があった。

第一に、当初の預金保険機構による債権放棄のあり方について、国民に対して、何ら基準または原則が示されていなかったことである。そごうの債権放棄はあくまでも例外と預金保険機構理事長の談話が紹介されたが、それなら、なぜそごうだけが例外なのか、といった説明が十分でなく国民に対し全く説得性がなかった。今後も、なお多くの不振企業のリストラや再建計画が実施されることが想定されているなかで、ゼネコンなどそごう同様、多くの関連企業を持ち社会的影響が大きい企業に対し、どのような場合に債権放棄という処理方式が認められ、どのような場合に認められないのか、という基準を改めて明確にしておくことが必要であった。そしてその基準に関しては、預金保険機構や再生委員会がしばしば言及している短期的な処理コスト(国民の負担)だけではなく、モラルハザードの発生なども勘案した長期的な社会的コストが考慮されなければならないことはいうまでもない。今回だけは例外という説明は、これまでの破綻処理に関する説明の失敗で金融監督当局が信認を失った不幸な先例の教訓に学んでいない。監督当局としての信認を得るにはアカウンタビリティーを高める必要があり、そのためには、こうした新たな事態に対応する際には、必ず明確な基準を示すことが必要である。

第二は、当初のそごう再建計画の妥当性である。当初から、多くの人がそごう再建計画は、単なる数字あわせで破綻処理の先送りではないのか、といった疑念を抱いていた。住専や佐々波委員会による公的資金投入決定などのケースにおいても、問題先送りをした結果、結局、最終的には公的資金のさらなる投入を求められることになった。再建計画の妥当性を明確に説明できるのは、そごう以外には、メインバンクしかいない。その意味で、クレディビリティを得られない債権放棄を前提とする再建計画を押し通そうとしたメインバンクの責任は重い。

第三は、債権放棄といった極めて日本的な手法に関する規律づけの問題である。銀行に公的資金が投入されている以上、民間の任意契約に基づく処理であるとはいえ、経営者の責任、株主の責任、貸し手であるメインバンクである銀行の責任が従来より以上に明確に問われるべきであった。

次に、そごう再生案の決着に至るプロセスを離れ、金融再生法そのものにかかわる問題がある。

第一に、瑕疵担保責任条項の不備である。仮に新生銀行自身が債権放棄することが、債権回収額を大きくするとしても、瑕疵担保責任条項が存在するかぎり、新生銀行自身が債権放棄をするインセンティブはない。債権価値が2割以上減価すれば、国の補助金を受けられるという瑕疵担保責任条項が存在する以上、買い戻し請求をする方が新生銀行にとって有利であり、債権回収をサボタージュするインセンティブが働いてしまうからである。今後の破綻処理にあたっての、承継資産に関する預金保険機構と民間金融機関の間のロスシェアリングルール形成にあたっては、こうした歪んだインセンティブが働かないようなルールを作る必要がある。

第二は、特別公的管理銀行の問題である。特別公的管理という方式は、民間から民間へ銀行を譲渡する金融管財人方式またはブリッジバンク方式に比較すると、コストが高くつく。すなわち、特別公的管理銀行では、市場原理に基づいて、承継銀行が債権を選別することができず、国(金融再生委員会)が社会的な観点も含めて総合的に承継銀行の適・不適債権を決定する。この結果、経営が悪化していたそごう債権も新生銀行が引き取らされるかたちになったが、結果的にこの決定が、問題先送りにつながってしまった。その他のライフや第一ホテルといった債権についても同様、新生銀行が引き取った後に、両社とも会社更生法を申請している。今後金融再生法に基づいて、新たな特別公的管理銀行が短期的に出現する可能性は低い。しかし、新預金保険法でもシステミックリスク時には、破綻金融機関の処理にあたって、特別公的管理銀行方式が検討される可能性がある。そうした場合、特別公的管理銀行の債権選別にあたっての基準は、貸出先企業の収益性と財務基盤とすることが最終的な国民のコストを小さくすることを教訓として学び、そうした選別を当局に制度的に義務づけることが必要である。

第三は、金融再生委員会の限界である。金融再生委員会は、金融再生法や金融機能早期健全化法で公的資金を注入している多くの銀行の実質的な株主としての立場を持ちながら、金融監督庁を管轄する金融監督当局の立場も併せ持つ。すなわち、預金者の代理人と株主の代理人の顔を併せ持つ存在であり、当局としての方向感が不透明になっている。金融再生委員会の限界がこうした事例に表れており、時限的な組織とはいえ、禍根を残すこととなった。来年初には、金融再生委員会は、金融庁に引き継がれるが、公的資金投入期間中においては、金融庁の監督政策の方向性が不透明にならないような工夫が必要になろう。

今回のそごう問題では、政治のきわめて不透明な介入が皮肉なことに、今後の同様な問題についての透明性を高めざるを得ない方向に作用した。

こうした処理は、対象企業により大きな痛みを伴い、一部の金融機関の経営にはより大きな打撃となるかもしれない。しかし、わが国には、処理の遅れている不振企業が多く存在していることを直視する必要がある。そして、日本が構造改革をしていくうえでは、これら不振企業を抜本的なかたちで再建することは避けて通れない試練であり、これらの企業の整理淘汰を通じてわが国の経済や金融システムも再生されるはずである。こうした負け組不振企業の抜本的処理についてグランドデザインを描き、処理を粛々と実施していくことが必要である。少なくとも、協同組織金融機関などの中小金融機関まで含めてセーフティネットや公的資金の仕組みは用意されており、これを最大限活用して、わが国経済の再生に向けて官民一体となって取り組むことが重要である。
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