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Business & Economic Review 2001年12月号

【REPORT】
BSデジタル放送発展への課題と対応策-苦闘の1年からの教訓

2001年11月25日 調査部  メディア研究センター 西正


要約

BSデジタル放送の目玉商品は、高画質のデジタルハイビジョン放送と、双方向機能も発揮しうるデータ放送の二つである。しかしながら当初の段階では、アナログ時代の経験からハイビジョン放送の集客力には疑問が持たれていたため、もう一つの目玉であるデータ放送に大きな期待がかけられた。BSデジタル放送を視聴するには、専用のチューナーを取り付けるか、チューナー内蔵のデジタルテレビが必要である。発売当初、前者の価格設定が十万円前後であったのに対し、後者は40万円前後であった。BS各社としては、とりあえず番組編成などで工夫を凝らし、データ放送機能をふんだんに盛り込んでいけば、十万円前後で手に入るチューナーの方は普及が進んでいくであろうと考えていたようだ。

ところが、BSデジタル放送の開始から1カ月を経たところで、早くもその目算は大きく狂い始めた。放送が開始されると、肝心のデータ放送で、文字化けや画面のフリーズなどが続出した。その結果、視聴者がデータ放送に疑念を抱き、買い控え行動を起こしてしまったのである。一方のデジタルハイビジョン放送は、予想に反し、奥行きのある立体感溢れる映像の美しさが注目されることとなったが、こちらは視聴者の期待に応えられる番組が作られても、視聴するためのテレビが高価なため普及に弾みがつかない。メーカーはハイビジョンテレビが売れるとは思っていなかっただけに量産しておらず、価格も高止まりのままであった。
ハイビジョンとデータ放送、目玉商品を取り違えたテレビ局や家電メーカーにとっては、厳しいスタートを迎えることとなった。

BSデジタル放送の普及を阻害することになったのは、それだけにとどまらない。BSデジタル放送に参入した民放キー局各社は、視聴者ゼロからのスタートということもあり、広告費収入が限られていたことから、番組制作にかけられる予算も地上波放送とは比較にならないほど少ない。そこで、一つの番組を地上波とBSの両方で使うなどの二次使用が不可欠とされていたのだが、著作権者である出演者などの同意を得られず、BSデジタルでの放送が中止に追い込まれるケースが多発している。

また、BSデジタル放送の普及については1,000 日で1,000万台という意欲的な計画が立てられ、業界関係者はその達成の根拠としてケーブル視聴者を見込んでいた。しかしながら、ケーブルテレビは一握りの大手事業者を除けば、現状、回線の大半はアナログである。つまり、ケーブルテレビでBSデジタル放送を視聴する人の大半は、ただ番組が見られるだけである。本来ハイビジョンや双方向を売り物として制作された番組を、その魅力を享受することなく、ただ見ているだけとなったため、BS デジタルはつまらないという口コミが広がってしまったのである。そこから得られる教訓としては、ケーブルテレビを通じてアナログで視聴している人は1,000万台から外して考えるべきであり、あくまでデジタルで受信している人を目標値としてカウントすべきだということである。

BSデジタル受信機の出荷台数は、放送開始から半年間にわたって減少を続け、その後も低水準で推移していることから、家電メーカーにとってもテレビ局にとっても厳しい状況に陥っている。ただ、不振の原因については、お互いに相手に責任があると主張し合っている。家電メーカーは魅力的な番組がないからだと主張しているのに対し、テレビ局は機器が高すぎることが普及の妨げになっていると主張する。しかしながら、家電メーカーにしてもテレビ局にしても、普及することが自分たちのメリットにつながる以上、お互いを責めあうよりも、手を組んで普及に努めるべきであった。

メーカー側では、松下と東芝がBSチューナーを無償提供するという思い切った戦略を採り注目された。これにより、なお普及が滞るようであれば、原因は番組の方にあるとして、テレビ局側が正念場に追いやられる状況がつくられることとなった。しかしながら、テレビ局としては、メーカーが機器を無償貸与するのと歩調を合わせて、デジタルならではの番組を取り揃え、共同で普及に努めるべく、積極的な方策を打ち出すべきであっただろう。

BSデジタル放送を不振から立ち直らせ、発展軌道に乗せるためには、東経110度CS放送との相乗効果を狙うのが最善の策と考えられる。BSデジタルでは周波数の細切れ認可が行われたため、あまり高度な双方向サービスは実現できなかったが、それをカバーするものとして期待されているのが、東経110度CSである。東経110度CSの免許条件の一つが、BSデジタルの普及に寄与することであった。民放キー局系のBSチャンネルの番組連動型サービスを、同系列の東経110度CSで行えれば、BSデジタルのハイビジョンが生きてくることにもなる。また、BSも東経110度CSも見ることができ、高度な双方向サービスも使えるとなれば、視聴者をデジタルテレビに強く引き寄せることができるだろう。

2002年に行われる日韓共催のサッカーW杯の放送に勝機を見いだすには、デジタルハイビジョン放送による臨場感を売り物とし、デジタルテレビの需要を開拓していくしかない。そのためには、サッカーW杯が開催される相当前から店頭で積極的なデモを行うなどして、デジタルハイビジョン放送の臨場感をアピールしていく必要がある。

BSデジタル放送の成否は、地上波デジタル放送にも大きく影響する。それだけに、ライバル関係にあるNHKと民放キー局各社が手を組み、まずは普及に向けた努力をしていくことが必要である。競い合うのは、一定の普及がみられた後からでも遅くはない。新たなメディアを育てていくことが最優先であることを自覚するよう、関係者に強く望みたい。
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