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Business & Economic Review 2001年12月号

【POLICY PROPOSALS】
公的年金制度信頼回復への提言

2001年11月25日 調査部 環境・高齢社会研究センター 西沢和彦


要約

公的年金制度の信頼を回復し、将来不安を払拭するためには、2004年の次回改正を待たず直ちに改革を行うことが不可欠である。本稿で、とくに問題提起するのは次の4点である。

(1)1999年制度改正では、世代間格差の是正が不十分である。世代間格差を試算すると、30年生まれの平均的な夫婦の給付/負担の比率は4.20倍、50年生まれは1.40倍である。一方、90年生まれは0.61倍、2010年生まれは0.50倍まで低下する。著しい世代間格差を放置することは出来ない。
(2)99年財政再計算は、楽観的な前提のもとに行われており、より深刻な実態を伝えていない。例えば、厚生労働省は2025 年の厚生年金保険料を標準報酬月額の27.60%と提示しているが、現実的シナリオ(低位推計、運用利回り2.0%)では約30%と試算される。このまま手を打たず、現在示されている将来像が2004年改正において反故にされるならば、公的年金制度の信頼は完全に失墜する。
(3)厚生労働省は、将来にわたり公的年金の保険料を段階的に引き上げるとしている(段階保険料方式)。厚生年金は2025年まで5年毎、国民年金は2020年まで毎年の引き上げを想定している。 しかし、段階保険料方式は、マイナスの影響を家計に与え続ける。景気重視の政府行動をみる限りにおいても、実効性は極めて低い。段階保険料方式は実体のないフィクションであると言わざるを得ず、これを前提とした公的年金制度を信頼することは出来ない。
(4)厚生労働省は、今後とも公的年金財政の支出を上回る保険料を徴収し、公的年金積立金を積み増すことを想定している。その利用方法は、元本には手をつけず、運用収入のみを年金給付に充当するというものである。しかし、取り崩すべきタイミングで元本を使ってこそ、積立金の意義がある。厚生労働省の想定は、少子高齢化進行過程の現役層に追加的な負担を求め、公的年金財政の不確実性を高め、かつ、政府による市場運用の悪弊を拡大するものである。

基礎年金制度は、次のような改革を行う。

(1)財政方式は現行通り賦課方式とし、給付水準は現行の月額6万7,000円を維持する。
(2)基礎年金制度改革のポイントは、被用者年金制度(厚生年金制度および共済年金制度)と基礎年金制度の完全な分離である。基礎年金の財源を各公的年金制度からの拠出金で賄う現行の方法は、拠出金算出根拠が合理的ではなく、かつ、制度を持続困難なものとしている。そこで、財源を年金目的の消費税に変更する。その結果、国民年金空洞化、第3号被保険者問題などが解決されるほか、厚生年金保険料の引き下げにより、世代間格差も大きく是正される。例えば、90 年生まれの給付/負担の比率は、0.61倍から0.77倍に改善する。
(3)消費税率は今後60 年間、追加的に3.9%~5.9 %(単純平均5.4%)必要になると試算される。少子高齢化進行過程では、毎年消費税率が変わってしまう。この技術的問題を回避するために、本稿では、いったん消費税を導入した後、2016年までの間に5年毎3回だけ税率を引き上げ、以降は税率をほぼ一定に維持する解決策を提案する。

厚生年金制度は、次のような改革を行う。

(1)基礎年金拠出金負担がなくなり、厚生年金は真に被用者のための年金制度となる。この段階で、厚生年金保険料は99年財政再計算で想定される保険料の7割程度に抑えることが出来る。
(2)ただし、現在の給付水準は過大である。新規裁定者の年金給付(厚生年金報酬比例部分)を30%カットし、世代間格差を改善させる。給付カット後においても、平均的な厚生年金受給世帯では、月額20万7,000円の年金額(夫婦の基礎年金を含む)は確保される。一方、既裁定者の給付はカットせず、公的年金制度の信頼を保つ。
(3)本稿改革案の最大のポイントは、積立金の段階的取り崩しである。約135兆円ある厚生年金積立金は、2010年をターニングポイントとして、以降計画的に取り崩す。取り崩した元本と運用収入により、後世代の保険料負担を抑制する。 本稿の全ての改革案を受け、厚生年金保険料は標準報酬月額の14.1%程度(現実的シナリオでの試算)で今後60年間一定に維持することが出来る。財政再計算と同じ楽観的シナリオであれば、12.0%に低下する。およそ50年後には、完全な賦課方式へ移行することとなるが、このころには高齢化率が定常状態になっており、賦課方式でも世代間格差が拡大することはない。

厚生年金改革によって、積立金の利用目的と残高管理政策が明確になったことを受け、運用方法も次のような改革を行う。

(1)2001年4月からスタートしている厚生労働大臣による全額自主運用スキームは、国民の公的年金制度への信頼回復とは逆行する政策である。公的年金積立金運用を国債に限定することが改革のポイントである。
(2)年金資金運用基金は、資産の保有状況を即座に公開し、旧年金福祉事業団から承継した資産時価26 兆円のうち、社債・株式は順次売却、国債に替える。全額国債となった時点で、年金資金運用基金は廃止し、真に保険料拠出者の利益を代表する新組織により、残高管理政策及び情報開示を行う。

以上の改革の結果、基礎年金・厚生年金の機能を維持したうえで、次のような効果を得ることが出来る。

(1)50年生まれの給付/負担比率は、改革前の1.40倍から1.18倍に低下するが、一方で改革前には、世代間で損をするグループに属していた世代の給付/負担比率が改善する。90年生まれは、改革前の0.61倍から0.90倍へ、2010年生まれは0.50倍から0.85倍へ、それぞれ改善する。給付/負担比率は、世代を通じてフラットになる。
(2)かつ、公的年金積立金の取り崩しにより保険給付の原資を賄うことから、公的年金財政の安定性が増す。現実的シナリオで試算した今後60年間の厚生年金保険料は、標準報酬月額の14.1%であり、楽観的シナリオでは12.0%であるから、シナリオの違いによる保険料率の差が小さい。すなわち、給付財源として運用収入に多くを頼らないことから、見通しが狂うことによる公的年金の信頼低下という悪循環を軽減することが出来る。
(3)厚生年金保険料の保険料率を今後60 年間一定にすることにより、段階保険料方式を回避することが出来る。その結果、制度運営の安定性が大幅に増す。
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