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Business & Economic Review 2000年05月号

【論文】
リバース・モーゲージの普及促進に向けた課題

2000年04月25日 飛田英子


要約

将来に対する不透明感が強まる下で、生涯にわたって安定した収入を得ることができるリバース・モーゲージに注目が集まっている。リバース・モーゲージとは、自分が居住する住宅や土地等の不動産を担保に融資を受ける制度であり、利用者は死亡等で契約期間が終了したときに、担保不動産の処分等によって元利を合わせて一括返済する。

日本では1981年に武蔵野市が導入して以降、自治体や信託銀行等で同制度を採用する動きがみられたが、近年は契約件数が停滞状態にある。

この要因としては、(1)超長期にわたる融資制度にとって不可避な担保割れリスク、(2)土地を金融資産に比べて優遇している相続税、(3)融資条件の厳しさ、等の制度的要因に加えて、(4)子孫に財産を残そうとする日本人の遺産動機の強さという心理的要因が挙げられる。

さらに、同制度を採用することが資産活用上不利という経済的要因も指摘される。そこで、同制度の選択によって、利用者である高齢者とその遺族が受ける便益やコストを試算してみた。

これによると、高齢者にとっては生涯安定した融資を受けられるのでメリットが大きいものの、遺族にとっては清算のコストをすべて負担するというデメリットが発生する。すなわち、担保不動産の売却によって返済が行われる場合、遺族は不動産を相続できないにもかかわらず、不動産に係る相続税と、売却益に係る所得税を払う義務が生じる。

リバース・モーゲージは、老後の所得保障や世代間不公平の是正等を通じて、日本が高齢化社会にソフト・ランディングするために必要不可欠である。したがって、(1)遺族の経済的コストを軽減するための税制面での配慮、(2)担保割れリスクをヘッジするための保険機構の創設、(3)メニューの多様化、の断行により、同制度が早急に普及されることが求められる。

ちなみに、これらの政策を通じて、リバース・モーゲージが20年後の2020年にアメリカ並みに定着した場合、市場の規模は現在の320億円から16兆円へ、対名目GDP比率では0.02%から12.1%へ拡大することが見込まれる。このような市場の拡大は、シルバー・ビジネスの成長に寄与することが期待できることを考えると、同制度の普及促進は経済政策の観点からも不可欠といえよう。
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