Business & Economic Review 2000年04月号
【論文】
地方復権が経済再生の鍵-経済新生システム本格始動の処方箋
2000年03月25日 藤井英彦
要約
わが国経済は最悪期を脱し、このところ持ち直し傾向が続いている。こうしたなか、政府は、昨年11月、景気回復軌道をより確実なものとするとともに、21世紀に向け新たな成長軌道へのシフト実現を展望して、意欲的かつ画期的な『経済新生対策』を策定した。しかし、わが国経済再生の可能性は依然不透明である。本稿では、アメリカとの対比を通じて、わが国経済再生の死角の有無を検討してみた。
アメリカ経済は、90年代に入り、長期にわたるハイペースの経済成長を実現している。その要因を整理すれば、まずIT分野を中核とする新産業・ニュービジネスの勃興にはじまり、レーガン政権以来長年にわたるサプライサイド強化政策の成果、あるいは冷戦終焉に伴う世界的な価格低下圧力の増大や平和の配当等、様々なポイントが指摘される。
しかし、その牽引役をみると、主体は大企業ではなく、ベンチャー企業も含め中堅・中小企業である一方、地域別には都市経済ではなく、地方経済が主役である。
近年のアメリカ地方経済や中堅・中小企業隆盛の根底には、80年代入り後の高度情報化、さらに90年代半ば以降のデジタル革命がある。その結果、距離や時間等、物理的障壁がその障壁としての機能を喪失する一方、急速な環境変化のもと、対応スピードとコアコンピタンスが規模のメリット以上に企業競争力の焦点となるなか、都市集中や企業規模拡大等の集積メリットは次第に希薄化し、逆に、低コストの地方経済や中堅中小企業をはじめとする経営のアジリティーの高さ等、分散メリットが増大した。そこには、産業革命からデジタル革命へというパラダイム転換を映した新たなメカニズムの胎動がある。
翻ってわが国経済の現状をみると、中堅中小企業や地方経済が経済成長の主力エンジンに成長する動きは依然低調なものにとどまっているうえ、諸外国ではすでに過去のものなった都市集中傾向が近年一段と強まっており、国際的潮流に逆行する動きがみられる。その背景には、根強い高コスト体質の残存に象徴される通り、市場経済メカニズムが機能不全に陥り、非効率性が瀰漫(びまん)しているわが国経済の構造問題がある。
構造問題に対しては、規制緩和や行財政改革等、様々な取り組みが真摯に行われてきたものの、依然赫々(かっかく)たる成果を上げるに至っていない。高コスト問題の残存を踏まえてみれば、従来の改革では、地方の地域特性や民間活力が縦横に発揮される市場経済原理の確立に向けた取り組みが力不足であった点は否めない。逆にみれば、地方交付税制度に象徴される地域別格差や産業別格差を極力平準化しようとする社会的システムが戦後半世紀を経て定着・浸透し、獲得された利益が既定事実化するなか、そうしたナショナル・ミニマムをゼロ・ベースで見直す方策が、今後の改革の大前提となる。
具体的には、公的セクターでは、効率的な政府部門への脱却に向けた中央政府の分権化と地方政府相互間での競争システム拡充、民間セクターでは、価格参入規制の撤廃等による市場経済原理の貫徹と、市場の失敗に備えたユニバーサル・サービス下の価格競争システムの整備および独占禁止政策の強化が、とりわけ重要な課題である。