Business & Economic Review 2000年03月号
【論文】
BIS規制の超克-わが国金融機関が目指すべきもの
2000年02月25日 専務取締役 小西湛夫
- 新しいBIS規制案の公表
昨年春、金融再生委員会の柳沢委員長(当時)が、「国内基準の健全行の基準として、最低自己資本比率を従来の4%ではなく、国際的に業務を展開している銀行の基準である8%を目処として考える」と発言し、地域金融機関に大きな波紋を呼んだ。国内基準行のみならず、国際基準行もバブル崩壊後の不良債権処理や持合い株式の含み益の減少から、年々この自己資本比率の維持に苦しみ、一昨年に次いで昨年3月にも大手銀行15行が7兆5千億円の公的資金を受け入れ、自己資本の大幅増強を図った。これが現在の金融システム安定化に繋がったことは周知の通りである。
その自己資本規制の総本山たるBIS(国際決済銀行)のバーゼル銀行監督委員会が、昨年6月「新たな自己資本充実度の枠組み(A New Capital Adequacy Framework)」と題する規制案を公表し、本年3月を期限として市中協議を求めている。市中協議を経てこの案が採択されれば、1988年7月に発表、92年末に実施された「信用リスク」を対象とした第一次BIS規制、「市場リスク」を対象に追加導入された97年末の第二次BIS規制、これらに次ぐ第三次規制となる。
この第三次規制案の邦銀への影響は大きなものではないという意見もあるが、それは従来のように受け身でBIS規制に対処しようとする発想に過ぎない。今回の規制案、及び今後とも予想される規制強化は、金融再生を経て、グローバルな金融機関として復活を目指す邦銀に、多大のインパクトを与えるものである。つまり、第三次のBIS規制案は、復活を模索中の邦銀には新たな試練を課すものであり、金融技術力と好調な景気に支えられた欧米主要行には、更に優位性を確保する手段となりうるものである。
わが国は、21世紀の経済を牽引する戦略産業の一つとして「金融サービス業」を位置付け、銀行のみならず他のすべての金融機関、行政当局および学界が協働して、現在の難局に対処すべきであるが、そのなかでもリスク管理技術の発展を図ることはとりわけ重要な支柱となる。同時に、これによってBISや先進金融機関を凌駕し、産業再生とそれを支える金融立国の展望も開けてくる。何故なら、金融業が新たなグローバル展開と統合の時期にあり、かつ従来のリスク管理技術の限界が露呈され、「リスク工学」が新たな飛躍を遂げる段階にあるからである。 - BIS規制の歴史
- BIS規制は金融システムに貢献するか?
(1)BIS規制への批判とその反論
(2)銀行の二極分化
(3)規制裁定
(4)規制外他業態との競争
(5)多重管理 - 邦銀のバランス・シートの問題
(1)「たかがVaR、されどVaR」
(2)バランス・シートの問題 - グローバル金融の趨勢とBIS規制の将来
(1)グローバル寡占と複合化
(2)規制当局の課題 - 金融理論によるリスク管理の限界
(1)金融工学の支柱
(2)クラッシュ(暴落)の理論
(3)リスク管理の二つの流れ
(4)オペレーショナル・リスク管理の進展 - わが国の課題
(1)金融復活の緊急性
(2)戦略産業としての「金融サービス業」
(3)「リスク工学」の将来性
(4)「プロセス・エンジニアリング」によるリスク管理
(5)わが国金融機関の方策