Business & Economic Review 2000年02月号
【論文】
新年世界経済の展望-新たな均衡を求めて
2000年01月25日 調査部
要約
1999年の世界経済は、97年から98年にかけて生じた国際金融危機から世界経済が立ち直った年であった。それを可能にしたのは、アメリカ経済が好調持続を背景に世界の輸出を吸収し続けたことである。もっともその一方で、アメリカ経済では、経常収支赤字の膨張、株価の割高感の強まり、低水準の家計貯蓄率、などのひずみが拡大し、世界経済の不透明要因となっている。
2000年には、アメリカ経済のこのようなひずみがアンワインドしていくとみられる。問題はそのスピードであり、緩やかなペースで解消が進めば、世界経済はその影響を十分吸収し、さらに、これまでアメリカに集中していた投資資金が各国により分散化することを通じて、世界経済の発展にも寄与しよう。しかしながら、仮に急激な解消に向かった場合、株価やドルの暴落といった事態に陥るというリスクにも留意する必要がある。これは、アメリカ景気の失速をもたらすのみならず、回復の基盤が脆弱なエマージング諸国に大きな打撃を及ぼすであろう。
このようにみると、2000年の世界経済は、アメリカ一極集中から世界同時回復への新たな均衡を目指す年となろう。そのうえで2000年の世界経済を展望すると、先進国では、アメリカ経済が、利上げ効果の浸透などによって、これまでの4%台の高成長からやや鈍化するものの、外需の回復などを下支えに大幅減速に至る公算は小さく、ソフトランディングを達成する見通しである。一方、ユーロ圏経済は、ユーロ安に伴う外需主導の回復が内需に波及するなかで、景気回復ペースを速めていくと見込まれる。エマージング地域に目を転じると、東アジア諸国は、金融・企業改革の遅れをはじめマイナス要因は残存するものの、内需がやや持ち直すため、99年並みの成長ペースを確保できる見通しである。一方、中南米諸国は、為替相場の減価や金融緩和効果などに伴って、総じて景気回復傾向を強める公算が大きい。
通貨危機が頻発するなか、国際金融システムの再構築に向けた取り組みが始動している。通貨危機の防止および危機発生時の早期鎮静化スキーム、さらには、通貨制度そのものの見直しなどが検討されている。もっとも、通貨危機の防止に万能薬は存在しないうえ、利害の錯綜などを考えると、改革は漸進的なものにとどまろう。
以上のような新年の世界経済の姿を踏まえると、日本として取り組むべき課題は、まず何よりも自国経済の本格回復である。これは、仮にアメリカ経済のひずみが急激に解消した場合に東アジア各国が被るショックを緩和するという観点から、以前にも増して決定的に重要である。そのうえで、東アジア経済の回復を後押しし、また、通貨危機の再発を防止するために、積極的貢献を行っていく必要がある。