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Business & Economic Review 2001年10月号

【REPORT】
新たなメディアとしてのデジタル放送

2001年09月25日 調査部 メディア研究センター 西正、調査部 メディア研究センター 服部素子


要約

テレビ放送の歴史において、カラー化とデジタル化の間には、決定的に異なる点がある。それは、カラー化が進展しても白黒テレビはそのまま使用することができたのに対し、デジタル化の場合はそうはならないことである。放送のデジタル化が進み、アナログ放送が中止されると、視聴者側が何らかの追加負担をしない限り、アナログテレビは使えなくなる。

言い換えれば、カラー化に際しては、テレビ局は視聴者の動向、すなわちカラーテレビの普及率を気にせずカラー放送に移行できたのに対し、デジタル化の場合には、視聴者の動向こそが鍵となる。視聴者がアナログ放送を見続ける間、テレビ局はアナログ放送とデジタル放送を並行して放送しなければならない。つまり、デジタル放送はアナログ放送の延長線上にはなく、両者の間には決定的な断絶があるのである。 テレビ局はアナログ時代に培ったノウハウを生かすだけでなく、それに加えて新たな戦略をとることが求められる。本格的なデジタル放送時代になると、これまで築き上げられた業界の秩序が崩れ、新たな秩序が形成される可能性がある。

CSデジタル放送では、デジタル化のメリットのうち、多チャンネル放送を選択した。この結果、200を超える規模の多チャンネル放送が実現した。テレビ視聴時間が限られているからこそ、視聴者は本当に見たいものを選びたいのである。多チャンネル放送はこうしたニーズに応えて豊富な選択肢を提供してくれる。加えて、多チャンネルであるがゆえに、これまでの放送の概念にとらわれない新たなチャンネルの使い方が提示されうる。CSデジタル放送市場を活性化させるためには、ユーザーである視聴者の支持を得られなかったチャンネルは退出し、市場の強い支持を得たチャンネルだけが最終的に残っていくという市場原理に委ねるべきである。
多チャンネル放送サービスで先行するアメリカでは、価格の安い番組を購入し、繰り返し放送することで、低料金でのサービス提供を行っているチャンネルがある。その結果、加入者が増え、視聴料収入も増える、同時にローカルスポンサーもつくといったかたちで収益をあげている。これも、多チャンネル放送サービスの経営の一つの姿であると考えられる。視聴率としては1%前後のチャンネルも、ビジネスとして成り立っているのである。

多チャンネル放送を普及させるためには、視聴者が加入しやすく、脱退しやすいシステムを構築する必要がある。アンテナとチューナーのリース化を広め、初期投資の負担がなく、脱退したくなったらいつでもできるようにすることで、逆に加入者を増やすことができる。ハードルを低くして、少しでも関心のある人に実際に多チャンネル放送をみてもらい、その魅力を発見してもらえる機会を増やすことである。また、パーソナルなメディアとして、一つの家庭に複数の受信契約を実現させるためにも、加入に要するコストを引き下げなければならない。

デジタル放送は新たなメディアとして、先行き、有料サービスの数及び種類を増やしていくであろう。これまで企業からの広告料を収入源として無料放送を行ってきた地上波民放テレビ局も、広告放送に加えて有料サービスの展開を視野に入れている。新たに有料サービスに着手するということは、典型的なコンシューマー・ビジネスであり、課金システムの構築やユーザーへの対応が必要になる。

有料サービスが一定の規模で成立することになると、ソフトが露出する窓口であるウィンドウの数が増えて、わが国でもウィンドウズ展開が始まる可能性が出てくる。ウィンドウごとに優良なソフトをリリースする順番やタイミングを設定し、できるだけ多くの利益をあげようとする、マルチウィンドウ・リリース戦略の手法である。

わが国では、これまで地上波民放が最も資金力のあるチャンネルであることから、視聴者は真っ先に無料放送で優良ソフトと出合うことになっていたが、有料チャンネルの数が増え、そのなかで何回もソフトの使いまわしが利くようになれば、有料放送から作品がリリースされる状況も起こってくるであろう。

本格的なデジタル放送時代の到来により、地上波民放は複数チャンネルを保有することになった。複数チャンネルを保有するといっても、さまざまな形態がある。デジタルハイビジョンで放送するのに値するソフトがどのくらいあるのかということや、制作費など支出面の問題とあわせて考えると、BSデジタル放送では、標準放送の3チャンネルをすべて全国ネットとし、マルチキャストと呼ばれる放送を行うやり方が、また地上波デジタル放送ではこれに加えて、標準放送の3チャンネルのうち、1~2 チャンネルを全国ネットとして残りのチャンネルはローカル放送とするやり方が主流になっていくと考えられる。マルチキャスト方式に関してはまだ課題が多く残されているが、マルチキャスト放送の秘める可能性が、あらゆるジャンルで生かされることが期待される。

ただ、有料放送の導入という点については、簡単には解決の見込みが立ちにくいが、これまでのように1チャンネルしか持たなかった時代とは、編成に対する考え方を大きく変えていく必要がある。
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