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Business & Economic Review 2001年10月号

【OPINION】
本格的行革推進の処方箋-行革先進国イギリスの成功事例を踏まえて

2001年09月25日 藤井英彦


始動するわが国行政改革

わが国行政改革が本格始動に向けて動き始めている。 まず、昨年12月1日、行政改革大綱が閣議決定された。これにより、21世紀型の新行政システム構築に向け、2005年までを目途に行政改革を集中的・計画的に実施するとのスローガンのもと、内閣総理大臣を本部長とする行政改革推進本部が設置される一方、広範にわたる行革の対象が明確に打ち出された。その中核は次の5本柱、すなわち、
  1. 行政組織・制度改革(特殊法人・公益法人や公務員制度改革、および公会計の導入など) 国と地方の関係の見直し(地方分権の推進)

  2. 行政と民間の関係の見直し(規制改革)

  3. 電子政府の実現推進(政府情報のオンライン化、セキュリティー問題の克服)

  4. 中央省庁改革(省庁再編に伴う運営・施策の融合化、事務減量・効率化など)である。

それらの主要課題のうち、とりわけ、1.特殊法人などの改革、2.公務員制度改革、3.行政委託型公益法人などの改革、の3改革については、迅速かつ集中的推進を実現する観点から、2001年1月6日、内閣官房に行政改革推進事務局が新設され、本年度内に具体的な方針・推進計画を策定するとの方針が打ち出されている。さらに、本年6月には、77の全特殊法人について個別の事業の見直し案を8月までに策定、次いで民営化など、組織形態見直しの整理合理化計画も、当初予定を前倒しして年内取りまとめを目指す方針が打ち出されるなど、このところ改革推進スピードが加速している。もっとも、わが国行革に死角や改善点はないか。本稿では、そうした観点から、行革先進国であるイギリスと対比してみた。

イギリスの行政改革

2001年5月、総選挙に勝利したブレア首相は、イギリス経済の強化を第2 期政権の中核政策と位置づけると発表した。しかし、その経済強化策は、単なる経済対策ではなく、1.行政改革の推進によって公的セクターのさらなる効率化を追求し、2.行革によって浮いたコストを主要原資として一段の公的負担軽減と透明で魅力的な競争市場の整備・確立を図る一方、3.ヒト・モノ・カネ・情報など、新時代に即したサプライ・サイドの強化を通じて、経済活力の発揚・成長力の引き上げを目指す、という教育・研究開発力強化も包摂した網羅的・体系的政策大綱である。行革メニューから順にブレア改革の概要をみると、次の通りである。

(1)行政改革の概要

ブレア政権は、97年の発足以来、サッチャー保守党政権から、ほぼ20年にわたる行革路線を踏襲しつつも、単に行政コスト削減にとどまらず、公的サービス向上の同時達成を目指す新たな行革施策を模索してきた。そうした取り組みが次第に結実し、第2期政権では試行段階を脱し、順次、本格的な推進段階に移行し始めている。 主要施策は、

1)“Modernising government ”改革、2)一段の規制改革、3)電子政府の実現、の3点であり、具体的には以下の通りである。 1)“Modernising government ”改革

ブレア政権は、99年3月、21世紀を見据えた新たな行革プランとして、“Modernising government ”報告書を公表し、行政サービスの質向上と財政コスト削減という、本来、矛盾しやすい政策課題を、ITなど、新機軸の積極的活用などによって、今後数年間のうちに実現しようとする意欲的な行政改革プランを提唱した。整理すると、骨子は次の5点に集約される。すなわち、
  1. 従来、手薄とされてきた省庁間あるいは官民連携による複合的プランニングの推進を通じて、戦略的政策立案力を強化、

  2. 各機関が提供する全公的サービスについて、行政サイドなど、供給者の論理ではなく、利用者ニーズに合致したサービス提供を義務付け、公的サービスの提供者責任を明確化、

  3. 政府機関およびエージェンシーなど、各機関が責任を負う個別政策・公的サービスについて、具体的な目標設置と厳格な評価体制を整備し、公的サービスの質の追求と効率化・コスト削減を推進、

  4. ITなど、公的サービスへの積極的な新機軸導入に向け、明確な達成目標を設定し、電子政府を実現、

  5. 成果管理システムの見直しなどを通じて、公的サービス提供システムの抜本的改革を断行し、いわば公的セクターにBPR(Business Process Re- engineering )を導入するの5 点である。

さらに2000年には、2001~2004年度の各省庁やエージェンシーなど、公的機関の中期計画が策定された。具体的には、改革の概要を示すPSAs と、詳細を規定するSDAs の2本建て構成で、単なる行革メニューにとどまらず、具体的な行革目標を設定したうえで、第三者が公開された計測方法に基づいて厳密に目標達成度や評価を行う構成となっている。PSAs とSDAs の概略を示せば、次の通りである。


  1. PSAs (Public Service Agreements :公的サービス協定)

    各省庁をはじめ、政府各機関は、PSAs の作成に当たり、最低限、次の5 項目を公表する必要がある。すなわち、

    a )当該機関のミッションを平易な表現で簡潔に要約することで明確化し、
    b )当該機関が所掌分野、および、エージェンシーなど、所管する全機関を公表し、改革対象を明示したうえで、
    c )意欲的な目標を、具体的な成果の観点から理解し易い表現で策定する一方、
    d )Value for Money の観点から、各機関は個別業務ごとに生産性の向上・投下資金の効率改善を推進し、
    e )そうした改革推進およびコスト削減効果に関する十分な情報公開に向け、 少なくとも個別目標制定の責任者と個別目標達成のための連携相手、および説明責任遂行の具体策について明示することが義務付けられている。


  2. SDAs (Service Delivery Agreements :サービス提供協定)

    さらに、各機関は、PSAs 実現のための具体策としてSDAs を策定し、最低限、次の7項目を発表する必要がある。すなわち、

    a )まず、少なくとも次の6項目について、説明責任の所在(Accountability )が、例えば、大臣あるいは担当部局などのいずれにあるかを明確化し、
    b )各機関が掲げた改革・コスト削減などの個別目標ごとにそれぞれの達成度について、具体的な計測方法や評価主体、公表方法など、情報公開の詳細(Delivering Key Results )を明示したうえで、
    c )各機関は、まず、新たな業務遂行スタイル・ビジネスモデルに即した組織体制か否かという視点をベースに、それぞれの抜本的な組織改革を中心に、行革実現に向けた具体的改革策(Improving Performance )と、
    d )利用者ニーズに即した公的サービス実現のための具体的対応策(Consumer Focus )、
    e )および、諸改革実現に向け、各機関所属の多様な組織の望ましい管理・運営スタイルを追求するマネジメント・プラン(Managing People )、
    f )さらに、全公的サービスの2005年電子化目標を実現するための具体的な電子政府実現策(Electronic Government )と、
    g )省庁間や中央・地方政府間など、政府横断的な戦略的政策立案力強化実現策(Policy and Strategy )を公表する、 の7 項目である。


2)一段の規制改革

2001年4月、「規制改革2001年法(Regulation Reform Act 2001)」が成立した。本法は「規制緩和および外注化法(Deregulation and Contracting Out Act:94年法)」の規制緩和推進力を一段と強化した法律であり、いずれも、規制緩和が必要と主務大臣が判断した場合、議会の法令改廃を待つことなく、議会に対する規制改正案提出によって不当・過大の規制排除を推進する制度である。94年法では、規制撤廃以外に選択肢がなかったため、必要な社会的規制であっても、当該規制が過大・不当の場合、そのままに放置するか、あるいはすべて排除するかの二者選択しか許容されず、適切な事案処理が困難であった。2001 年法では、そうした不都合に配慮し、主務大臣の権限が大幅に強化され、主務大臣が自己の判断によって適切な規制へ変更することが許容された。これによって一段と機動的・積極的な規制改革が可能になるとして積極的に評価されている。政府の試算によると、本法の施行によって不当・過大規制が排除され、民間が享受すると見込まれるメリットは1億ポンドに上ると見込まれている。

なお、こうした新スキーム導入の根底には、規制の功罪を比較衡量し、ITなど、新機軸の活用などを図りつつ、規制が必要でも最小のコスト・利用者負担となるあり方を追求・設計すべしとの行革思想がある。ちなみに、本法策定の主力部隊となったthe Better Regulation Task Force(規制改善タスクフォース)は、社会的規制も含め、すべての現行規制を対象に、規制方法の極小化や規制理由の明確化などを通じて、規制の抜本的見直しを推進することを主要ミッションとして、ブレア政権発足から4カ月後の97年9月、首相直属の機関として内閣府に新設された機関である。さらに、Value for Money 原則も含め、こうした問題意識は、そもそも80年代末から90年代初頭の時期にはすでにその萌芽がみられ、メージャー政権の「シティズン・チャーター(市民憲章)」に結実している。

3)電子政府の推進

イギリス政府が掲げる電子政府計画の特徴を整理すれば、1.明確なタイムスケジュールが策定されていると同時に、2.電子政府が、効率的な政府および利用者ニーズに即した公的サービス実現の有力な戦略ツールとして明確に位置づけられている、の2点に集約される。具体的には次の通りである。


  1. 明確なタイムスケジュール

    a)公共サービスのオンライン化プロジェクトでは、すでに2000年時点で33%が実施済みであり、今後、2002年までに71%、2005年までに全サービスのオンライン化が達成される計画である。
    b)一方、政府調達のオンライン化プロジェクトをみると、電子調達では2001年末までに全政府調達の9割、電子入札では2001年末までに全体の5割、2002年末までに10割達成の目標が設定されている。


  2. 効率的な政府および利用者ニーズに即した公的サービス実現の有力な戦略ツール

    a)政府の各機関・各組織が内部で保有する情報を公的セクター全体で利用し、情報の集約と有効活用、およびそれによるコスト削減を目指す「ナレッジ・ネットワーク・プロジェクト」では、2002年1月に政府のシステムを変更し、同年7月にはエージェンシーなどに拡大する計画である。
    b)電子民主主義の実現プロジェクトでは、電子選挙のみならず、行政計画など、行政過程への電子的参加、さらに、市民政府間・市民議会間・市民間対話など、様々な政治・行政過程の決定プロセスへの積極的参画を推進する方針である。


  3. その他

    a )認証制度では、政府のゲートウェイ設置、および公的電子鍵インフラの整備・確立を目指す“Public Key Infrastructure”プロジェクトが推進されている。

    さらに、こうした取り組みはすでに成果を挙げ始めている。一例を指摘すれば、2000年12月に開設されたUK Onlineがある。ここでは、市民生活を営むうえで必要なあらゆる情報が、各官庁の所管を超えて、供給者の論理ではなく、ユーザー・ニーズの観点から利用しやすく提供されている。情報はキーワードで検索できるほか、分野別サーチも可能であるうえ、そこでは、単なる情報提供のほか、
    1.相談窓口の連絡先や担当者名、所在、2.各種手続き、3.カウンセリングなど、付帯サービス案内まで、様々なメニューが分かりやすく取り揃えられている。


(2)経済政策

2001年5月、総選挙で勝利したブレア政権は、イギリス経済・産業競争力の強化を第2期目の中核政策と位置づける方針を明確に打ち出した。行革の推進によって一層効率的な政府を実現し、それを原資に公的負担のさらなる軽減と、透明・競争市場の整備・確立を通じて、経済活力の発揚を目指す構想である。推進政策の具体的枠組みは次の通りである。

a )法人税率引き下げでは、中小企業に対する税負担の軽減が指向されている。すでに前国会で23%から20%への引き下げが決定されている一方、小企業に対しては、別途、税率10 %適用制度が設けられているなか、適用企業対象を拡大し、ベンチャー企業など、起業促進型税制への転換を図る。
b )R&D投資減税拡大では、すでに前国会で中堅・中小企業を対象とするR&D減税が導入済みであるなか、2002年度予算で適用対象を大企業に拡大し、民間R&D投資に対して一段の盛り上がりを後押しする方針である。
c )ストック・オプション税制の拡充では、企業向けストック・オプション減税を導入する一方、ストック・オプションに対する適用税率を10 %とし、ベンチャー企業など、起業インセンティブの強化を目指す。
d )キャピタル・ゲイン課税の軽減では、現行40%の適用税率を大幅に引き下げ、1年以上保有した資産については20%、2年以上保有した資産については10%に軽減し、起業環境の改善を推進する。
e )市場競争原理の徹底では、公正取引庁(Office of Fair Trading )の権限を大幅に拡充し、価格協定の疑義などの告発受理後、調査を開始する体制から、権限による独占排除など、総じて競争制限的な行為を自主判断によって積極的に取り締まる政策に転換する一方、カルテルなど、独占に対する罰則を強化する。
f )破産法制の改革では、事業の失敗に対する過度のリスク負担を回避し、積極的に起業・再起を促進する観点から、従来の債権者保護的色彩の強い破産法制を改め、破産管財人に協力的など、善意の破産者の罰則を軽減し、早期の事業再開を促す一方、主要債権者が集団で管財事務に当たり事業再建を目指すスキームを強化する。
g )技術立国政策の展開では、科学・技術分野を中心とする研究・開発力の強化に向け、大学・研究所の研究体制を拡充すると同時に、高等教育・研究機関を中心に、人材育成・教育システムの改革を断行する。
h )そのほかの主な推進施策では、各地域の政府系ベンチャーキャピタル基金に1,500万~5,000万ポンドの投資目標を設定するなど、ベンチャー・キャピタル・ファンドを中心に投資優遇措置を検討する。

わが国行革の課題

ブレア政権のこうした経済力強化重視姿勢の根底には、IT 革命に伴う世界史的パラダイム転換に対する明確な時代認識がある。 すなわち、IT やバイオ、あるいは環境など、新市場創出力の有無・多寡が、今日、各国の経済成長力を左右するキー・ファクターとなるなか、産業革命以来、数世紀にわたり重要視されてきた人的・物的資本の集積による競争力よりも、むしろ起業環境の良否が、短期的にも、中長期的にも一国経済の成長力を決定するという新たな経済システムへの転換が進行している。 さらに、その結果、魅力的な国内市場形成に向けた制度間競争が国際的規模で激化するなか、近年、新市場創出の主要プレーヤーが、既存の大企業よりも、むしろベンチャーなど、中堅・中小企業にシフトする動きが一段と強まっている一方、新市場創出に対する、大学や研究所など、科学技術先端セクターの寄与、あるいは科学技術先端セクターと産業との産学協働の役割が飛躍的に拡大しているという俯瞰的情勢判断である。

そうした基本認識に立脚してみれば、行革は、最良かつ喫緊の経済政策であると捉えられよう。 すなわち、徹底した行革の断行によって、初めて公的負担の軽減と同時に、透明で自由度が高く、コスト競争力の強い国内市場が形成され、次いで、内外資本やノウハウ、人材の流入促進を通じて成長力を強化することが可能となる。いわば、行革は、一連の経済政策パッケージの起点に位置する起動的政策である。

そこで、行革先進国であるイギリスについて、行革推進状況をやや長い目でみると、周知の通り、79年のサッチャー政権登場以来、20余年にわたり営々と行革が推進されてきた。その結果、公的セクターがGDPに占めるシェア比は、サッチャー政権発足当初の81年をピークに趨勢的に低下し、96年には9.8%と10%を割り込み、81年の16.8%対比6割弱までのスリム化に成功している。

それに対して、わが国はここ20年間を通じて総じて14%前後で推移しており、イギリスの80年代半ばの水準にとどまっている。事実、わが国では若干の民営化は行われたものの、大半の政府部局を対象とする本格的なエージェンシー化や政府組織の縮小など、行革の本丸には依然未着手であり、イギリスに引き直せば、“Next Steps”が開始される88年以前の局面に近く、わが国はイギリス対比10年強の格差があると捉えることが可能であろう。 加えて、わが国の経済政策についてみると、まず法人税実効税率は引き下げられたものの、各国が引き下げ競争を一段と強めるなか、諸外国比では依然高水準であるうえ、小企業への最低税率適用の拡大や投資減税、株式税制の見直しなど、今般、イギリスブレア政権が打ち出した新経済政策と対比してみれば、起業抑制的色彩が相対的に強い懸念が大きい。
しかし、新市場創出を基軸とする21 世紀型経済成長モデル整備に向けた国際的な制度間競争が激化するなか、わが国行革に時間的猶予はほぼ皆無であり、早急にイギリスをも凌駕する抜本的行革の実現が焦眉の急である。強力な行革推進力を確保するには、1.対象の拡大と手法の多様化、2.強力な改革推進システムの構築、3.徹底した情報公開、の3点の断行が喫緊の課題である。具体的には以下の通りである。

(1)対象の拡大と手法の多様化

このところ、特殊法人と公益法人が行革推進の主力ターゲットとなっている。 当然、これらも行革の中心的課題であることに間違いはない。しかし、行革遂行の第一の対象は政府自体である。イギリスをみても、80 年代末以降、今日まで、“Next Steps ”などを通じて推進されてきた行革の中心対象は政府、とりわけ、単純な民営化や廃止が困難な業務の改革であった。そうしたイギリスの行革の経験を踏まえてみれば、わが国が各国を上回る行革を迅速に断行し国際競争からの劣後を回避するには、まず、改革対象の拡大が大前提である。

加えて、このところの行革推進の主力手法は、原則、1.民営化、2.廃止、3.独立行政法人化、4.存続、のなかから選択されることとなっている。確かに、特殊法人や公益法人の改革にとどまるのであれば、それらの行革ツールで十分であろう。 しかし、中核的政府機能も包摂した聖域なき行革断行を成功させるには、それらだけでは不十分である。1.政府から市場、2.中央から地方、3.官からNPO、の三つの分権化推進と同時に、各主体が担うべき責任範囲や執行範囲を、新機軸の発展・浸透・利用度合いなど、経済・社会環境の変化に応じ、民営化など、原則、マーケット・メカニズムに委ねる市場化テスト手法から、マーケット・メカニズムを部分的に活用しつつ、公的セクターの介入・裁量権との融合によって、公的サービスを効率的・効果的に提供するPFI など、官民協働型手法まで、多様な手法を弾力的に採用し、さらに、状況適合的システムを創設・運用する柔軟な体制の構築が不可欠である。イギリスで重用され、わが国でも活用されるべき代表的行革手法は、以下の通りである。

a )PFI (Private Finance Initiative ): 募集・入札の後、政府と契約を締結し、サービス提供や業務遂行を民間セクターが実施し、政府は、通常、公的サービスの購入主体となる事業形態である。民間事業者が、資金調達や原材料費など、事業リスクを原則すべて負担する。
b )PPPs (Public Private Partnerships ): 事業形態はほぼPFI と同様であるものの、政府関与がより大きく、官民協働的性格が強い点が、PFI 対比でみたPPPs の特徴である。典型例として、地下鉄工事など、事業リスクが過大で、部分的にも財政資金の投入が必須となる事業が指摘される。 PPPs の導入によって、PFI では事業化が困難なプロジェクトが、事業対象になる余地が生まれたとして、近年、活用範囲が拡大する方向にある。
c )ジョイント・ベンチャー方式: 契約により、サービス提供・業務遂行を政府出資企業が実施する事業形態である。対象は、サービス提供の公的機関への限定条件が要請される業務が一般的である。
d )外部委託(Contracting Out ): 契約により、サービス提供・業務遂行を民間セクターが実施する業務形態である。PFIでは数十年にわたる長期契約が中心であるのに対して、外部委託は、数年間など、短中期プロジェクトが中心という特徴を持つ。
e )外庁化(Externalisation ): 政府との契約によって、民間事業者がサービス提供を行う点で、民営化や外部委託と同様である。それらとの相違点は、政府セクターが指揮命令権を留保している点である。
f )強制競争入札制度(Compulsory Competitive Tendering ): 法令などにより、一定の行政サービスの提供において、入札が義務付けられ、民間・政府のいずれの機関でも落札した機関が業務遂行に当たる。ロンドン・バス事業の黒字化は本制度の代表的成功事例のひとつである。本制度導入当初には対象業務はゴミ収集など、限定的であったものの、その後、公的サービスは原則入札対象とされ、人事・企画業務も含まれるなど、大きく対象が拡大された。 なお、2000年からベスト・バリュー制度に改変され、単にコスト削減のみならず、サービスの質向上も同時に追及される一段と厳しいシステムへ発展的解消を遂げている。
g)民営化(Privatisation): サービス提供・業務遂行のすべてが民間事業者に移転されるため、サービス内容や事業結果などに対する公的機関の干渉は原則排除される。

なお、いかなる手法を活用するにせよ、市場原理を最大限活用して、不要・過大な規制や政府介入は排除されるべきであるものの、公益事業分野をはじめとして、公的サービスでは、一般に、自然独占など、市場の失敗が発生しやすい。しかし、多くの場合、スキームの工夫によって、そうした問題は克服することが可能である。ちなみに、イギリスの電力自由化では、重複インフラを回避する観点から送電の1社独占、配電・供給事業の12社独占を許容しつつ、プライス・キャップ制度などの価格規制を行う、などの工夫によって自由化に成功している。(2)強力な改革推進システムの構築 行革は、主体別には、政府機関や政府関係機関など、すべての公的機関が対象であり、行為からみれば、社会的規制も含め、あらゆる公的サービスが対象である。そのため、可及的速やかに行革を断行し、その果実を享受するには、行革担当の中心部局を設けるだけでなく、システム内部に行革を自動的にプロモートする体制、いわば、ビルトイン行革推進スキームを構築・整備し、改革推進力を強化する方策が望ましい。こうした観点からイギリスの経験をみると、88年の“Next Steps ”導入以来、今日まで永続的に推進されてきた行革手法、すなわち、個別業務ごとに、1.業務自体の要否や、2.業務縮小の可否、3.さらに主体変更の可否、を細かく定量的に検証すると同時に、上記の多様な行革手法の活用によって、コスト削減・効率性の確保と公的サービス水準の維持・向上を同時に実現する“Prior OptionsTest”が有力なツールであろう。推進手順に従って、その大枠を示せば次の通りである。


当該業務は必要か?

不要業務は、その要否の水準・度合いに応じて、廃止もしくは規制緩和が行われる。ここで、前述の規制改革2001年法や94 年法が重要な役割を果たす。

必要な業務の場合、民営化(Privatisation )は可能か?

81年の英国航空を嚆矢として、BT、英国鉄道など、80年代を通じて民営化が積極的に推進された。このところ、エージェンシーからの民営化が次第に増加しており、近年でも、依然、民営化は有力な行革手法である。

民営化が困難な場合、民間委託(Contracting Out)は可能か?

個別業務ごとに、強制競争入札(Compulsory Competitive Tendering )が実施され、仮に、公的セクターが応札に失敗した場合、当該部  門は廃止など、見直しが行われる。もっとも、現ブレア政権では、強制競争入札制度は、上述の通り、ベスト・バリュー制度へ発展的解消  を遂げ、その結果、コスト競争力と同時にサービスの質も厳しく問われることになった。

民間委託は困難としても、エージェンシー化(Agency )は可能か?

エージェンシーは、88年の車検局を皮切りに、登記所、特許庁、さらには軍訓練所まで幅広く活用されている。目的は、行政機関のうち95%を占める政策形成以外の政府機能の外局化である。エージェンシー職員は99 年4月時点で35.7万人と全公務員の77%に上り、大半の公務員がエージェンシーに所属している。
さらに、こうした“Prior Options Test ”を通じて、個別業務ごとに望ましいサービス提供の形態や担うべき主体が、個別かつ不断にゼロベースで見直され、環境変化や情勢変化を踏まえ、数年サイクルで例外なく幾度も本テストが実施される。本テストに残った業務のみ、政府が直接所管すべき業務と位置づけられ、その結果、公務員数は、エージェンシー機関職員も含め、サッチャー政権が登場した79年の74万人から99年には46万人へ4割減少している。

(3)徹底した情報公開

行革の推進力を確保・強化するためには、イギリスでもみられる通り、単に行革を行うだけでは不十分であり、議論の叩き台として、また、改革の処方箋作成に向け、徹底した情報公開が不可欠である。とりわけ、1.公的機関活動の定量化、2.情報公開制度の拡充、3.ITなど、新機軸を活用した電子政府プロジェクトの推進、の3.テーマの克服が緊急課題である。具体的には次の通りである。

まず、政府各機関の業務や資産、あるいは資金運用やコスト構造、さらに現行推進政策の業績評価や行革推進の功罪など、様々な角度からの定量化が可能なスキームの構築・整備である。わが国でも、昨年末、国の貸借対照表が作成される一方、このところ、特殊法人に対する企業会計原則適用の議論が盛り上がるなど、定量化に向けた動きが始まっている。
しかし、そうしたわが国の公的セクターの活動に対する定量化の取り組みは、偶発債務の処理や組織・個人の業績評価なども含め、緒に就いたばかりであるうえ、政策評価をはじめとして、定量化の取り組みが始まっている分野でも、依然、手法や実施機関の問題がある。やはり、英米など、行革先進各国のやり方を取り入れ、定量化の実施機関は第三者機関とし、手法については詳細な内容を明示すべきである。
加えて、わが国行政監察機関たる会計検査院に関しては、内閣所属を改め、英米同様、議会所属とし、詳細な監査情報徴求権限を付与すべきであろう。そのうえで、英NAO(National Audit Office )や米GAO (General Accounting Office)と同様、個別施策の政策評価あるいは部署・個別組織ごとのコスト削減成果など、あらゆる公的機関を対象とする強力な調査・評価機関に改組し、調査報告書が完成すると同時に、議会提出とともに対外公表する体制を構築することが望まれる。

次に、情報公開制度の拡充については、わが国でも本年4月、行政情報公開法が施行されたものの、依然、問題点が少なくない。まず、審議会などの透明化を例に行政過程の情報公開問題をみると、95年9月の閣議決定で審議会は原則公開と決定されたものの、その後のフォローアップによると、99年3月時点でも非公開が審議会などで34件、懇談会などでは149件と過半を占める状況にとどまるなど、依然、情報公開体制が未整備である。

加えて、情報公開法制自体についてみても、少なくとも法文上、公開媒体として、インターネットなど、電子媒体の活用を中心に据えるという明文規定が見当たらないなか、1.開示・不開示決定まで数カ月を要したり、2.開示されても、ペーパー・ベースが主体のため、手続き・管理が面倒なうえ、3.そもそも、行政情報の電子データ化が進展していないため、とりわけ本年初に行われた省庁統合など、大きな変化が発生すると、情報の存否自体の確認に手間取り、事実上、情報公開制度が機能低下に陥るなど、見直すべき点がある。ちなみに、米英では、こうした情報公開請求への対応に相当量の物理的・時間的マンパワーが必要となる事態に直面し、通常業務の円滑な遂行および不測のコスト増回避に向け、一段と積極的に情報公開を行う方針が強化された経緯がある。

さらに、現行法制には、1.特殊法人が施行後2年間対象外とされるなど、情報公開被請求機関の対象範囲が限定的であり、現時点でも、特殊法人や独立行政法人の情報公開はようやく検討委員会の最終報告取りまとめの段階にとどまる、2.行政庁は一定の場合非開示として公開請求を拒否できるものの、その基準が、個人や法人の利益侵害のおそれがある場合など、不明確で行政裁量が過大となる恐れがある、3.行政庁の開示請求拒否に対して情報公開審査会から棄却などの決定が出され、さらに、それに対して訴訟を起こすことは可能であるものの、判事が非公開とされた文書を裁判官室で見分し判断するインカメラ審査が、刑事・少年事件記録や捜査で押収したものについては、裁判所に認められていない、などの問題点が指摘される。

最後に、電子政府プロジェクトの推進でも、わが国の取り組みには改善すべき点が少なくない。電子政府プロジェクトを大別すると、1.行政情報の電磁的公開、2.戸籍や納税など、手続きの電子化、3.公共事業など、政府調達・入札の電子化、4.電子投票などの電子民主主義、の4分野があるなか、各分野ごとに進捗状況をみると、次の通りである。

まず、行政情報の電磁的公開では、わが国の場合、白書や審議会報告などの資料に関する情報公開については一定の進展もみられるものの、上記の通り、情報公開法に電磁的公開手法が採り込まれていないうえ、イギリスが“UK Online ”でサービスを開始した1.相談窓口の連絡先や担当者名、所在、2.各種手続きや付帯サービスの案内など、市民生活に直接役立つ情報提供サイトに対比してみると、利便性に欠ける面は否定できない。
そもそも、ブロードバンド時代の到来によって映像コンテンツを通じた情報公開が実用可能になるなか、審議会などの透明化問題でも、議事録作成よりもむしろ映像などによる情報公開が、迅速・簡便で、受け手にとって理解が容易など、様々な利点があるだけに、今後、わが国でも、技術進歩を最大限活用した情報公開システムを積極的に構築すべきである。
次に、行政手続きの電子化をみると、e-Japan 戦略で2003年度目標として1万868件の申請や届け出の電子化達成が謳われているものの、2000年度までにオンライン化された申請・届け出件数は124件にとどまる。 さらに、政府調達・入札の電子化について公共事業をみると、2001年10月から一部の直轄事業で電子入札が開始される段階にとどまり、電子調達では2001年末までに9割、電子入札では2002年末までに10割とするイギリスと比べ、大きく立ち遅れている。
最後に、電子民主主義では、投票所での電子投票についてはわが国でも検討が始まっているものの、公聴会など、政治・行政過程へのインターネットを通じた国民の直接参加については、議論すら行われていない。
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