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Business & Economic Review 2001年09月号

【POLICY PROPOSALS】
教育改革の社会経済学的分析-公立学校教育の再生に向けて

2001年08月25日 新美一正


「ゆとり教育」の破綻と深刻な学力低下問題に代表されるように、わが国の基礎教育は未曾有の危機に瀕している、にもかかわらず、これまで提出されてきた教育改革提言の多くは、教育現場の実情を十分に踏まえたものではなく、むしろ議論を混迷させ、教育改革の方向性を誤らせかねないものが多かった。本稿では、わが国の教育を巡る状況を正しく把握したうえで、今後の教育制度改革を巡る論議の方向性について、建設的かつ実現可能な提言の発信を試みた。

「教育費の削減」と「学力低下」との同時進行こそ、ここ10 数年におけるわが国教育の劣化を特徴付けるキーワードである。従来の教育改革論は、これらを別個の問題として取り扱うか、あるいは問題の全てを「公立学校の画一的・非効率な運営」に押し付け、その解体・民営化によって全ての問題が解消されるという根拠のない楽観論に陥るか、のいずれかに属するものであった。 しかし、これらは公財政の悪化という同じルーツを持つ問題であり、統一的に検討されなければならない。

そもそも、わが国公立学校教育が画一的で悪平等であるという俗論には現実的根拠がない。むしろ、教育予算の切り詰めによって画一的な公教育の維持が困難となり、随所で公教育の不平等性が顕著となっている。財政的な制約に由来する公教育の劣化を、私事化への安易な依存で補完してきた構造こそ、わが国における教育問題の元凶である。長期不況下で、教育の私事化が困難になりつつある近年、教育問題の深刻化が急速に進行しつつあるのは、その当然の帰結である。

教育ヴァウチャー制度、学校自由選択制、チャーター・スクールなどの教育の私事化政策は、理論的にも、先行して導入を試みた諸外国の経験に照らしても、わが国における教育問題を解決する手段としては不適切である。こうした施策を全否定するつもりはないが、先行して導入を試みた諸外国のケースでは、ほぼ例外なく公教育における格差・不平等性の拡大が発生している点を軽視すべきではない。

わが国公教育(とくに初等~中等教育)は崩れかかった公平性・平等性をもう一度回復させる方向に向けて改革が行われなければならない。そのためには、
(1)まず過去の教育改革の誤りを認め、その実施を中止すること
(2)当分の間、大規模な制度変更は凍結し、教育の私事化進行を食い止めること
(3)少なくとも現時点以上に公教育費の地域格差を拡大しないこと
の3点が前提条件となる。
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