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RIM 環太平洋ビジネス情報 2000年4月No.49

アジアの見方-蒙昧なる悲観論から脱せよ

2000年04月01日 さくら総合研究所 理事長 渡辺利夫


アジア危機が発生して以来のアジア悲観論、あれはいったい何だったのだろうか。欧米や日本の知識人の中に長く燻りつづけたアジア悲観論の「焼き直し」なのであろう。アジアで危機が発生すれば、これを合理的な政策選択を試みればいずれ修復可能な経済的事件とみるより前に、ただちに現状を構造的な矛盾のあらわれであるとか政治的病弊であるとか、はたまた成長力の涸渇であるとかいった悲観論的な結論と結びつけてしまう癖を知識人はなお拭えないでいる。「クローニー・キャピタリズム(縁者びいきの資本主義)」や「開発独裁」の蹉跌に危機の原因を求める、極度の悲観論が一般的であった。要するにわれわれはアジア悲観論が好きなのである。

人間の欲望が解き放たれた市場経済であれば、しかも変動ままならぬ国際市場の中でこれを営まねばならないのであれば、同類の危機はいつどこで起こっても不思議なものではない。多くの研究者やジャーナリストは、地中深く掘り込んでいって「クローニー・キャピタリズム」や「開発独裁」といった鉱脈にまでいたったつもりであろうが、それでアジア危機の真相が見えたことにならない。アジア危機は危機それ自体に則して解釈することがなぜできないのであろうか。

危機を危機それ自体に即してみれば、これは既存のそう難しくもない経済学の基礎的な知識で十分に解明できるものである。経常収支赤字は資本収支黒字、つまり外資導入によって補填されねばならならず、かつて長期資本によって賄われてきた外資が1990年代に入って短期資本にとってかわられ、この短資に依存した開発のリスキーなありようを模型的に示したものがアジア危機にほかならない。構造的な矛盾でもなければ重篤の病気でもない。矛盾でも病気でもない何よりの証拠に、現にアジア経済は危機からの確かな回復基調にあり、ほどなくして危機前の成長軌道に復していくにちがいない。

アジアが他の地域に比較して豊富な潜在力を擁しているという構図は、危機によっても損なわれてはいない。生産コスト、需要潜在力のいずれをみてもアジアの優位性は明らかである。アジアに対する海外直接投資もすでに回復しつつある。生産力の世界大の重心移動を担う海外直接投資という動態現象を、通貨・金融危機という調整現象の文脈で語ってはならない。アジアが再び海外直接投資の強力な「磁場」として復元することはまちがいないと私は信じている。
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