RIM 環太平洋ビジネス情報 2000年4月No.49
ASEAN3カ国(タイ、マレーシア、シンガポール)における政策金融
中小企業金融強化への取り組みと課題
2000年04月01日 さくら総合研究所 上席主任研究員 高安健一、さくら総合研究所 副主任研究員 横江芳恵
要約
ASEAN諸国が、通貨危機の一因となった貿易赤字の拡大を回避しつつ持続的な成長を遂げるためには、裾野産業を整備・育成していかねばならない。通貨危機は企業の資金繰りに大きな打撃を与えたが、特に、裾野産業の担い手である中小企業への影響は深刻であった。信用力において大企業に劣り、十分な担保を持たないことの多い中小企業への信用供与を促進するためには、何らかの政策的支援が必要である。
タイでは、通貨・経済危機の克服に取り組む過程で、中小企業金融の枠組みを整えてきた。しかしながら、政府系金融機関が本格的に機能するまでには時間を要する情勢にあり、また、資金供給力にも限界がある。民間商業銀行による中小企業向け融資を拡大させるための方策を併せて実施する必要がある。
マレーシアでは、従来から開発金融機関や信用保証機関の整備、政府による低利融資制度など、政策金融に必要な制度整備が進められてきた。しかしながら、いまだ十分な効果が上がっているとはいえない。今後は、政府は資金を供与するだけでなく、信用リスク分析に必要な基盤整備などを進め、民間金融機関による中小企業向け融資の増加を促していくことが必要であろう。
シンガポールでは、インセンティブの付与によって有望企業への資金配分を促し、中小企業の育成を進めてきた。政府による金融支援制度に加えて、成長企業向けの株式市場やベンチャー・キャピタル・ファンドの整備も進んでいる。弱者救済ではなく競争原理を前提としたこのような政策方針は、今後とも維持されよう。
今後期待される政府(政策金融)の役割として、(1)成長企業を対象とした資本市場の整備、(2)通貨・経済危機のような非常事態に、短期の流動性を供給するメカニズムの拡充、(3)民間金融機関の活用が指摘できる。