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RIM 環太平洋ビジネス情報 2000年7月No.50

ヒンズー勢力の台頭に揺らぐインド

2000年07月01日 さくら総合研究所 顧問 武藤友治


要約

インドは、その人口の8割までをヒンズー教徒によって占められるとはいえ、イスラム教徒を始めとする多数の異教徒集団を抱えるため、1947年に独立を達成するや、ジャワハルラール・ネルー首相が率いるコングレス党のもとで、政教分離を目指す世俗主義を国是として国造りに鋭意努めてきた。しかし、1950年代の後半からコングレス党政治が陰りをみせはじめたのを機に、非コングレス党勢力の増大によりインド政治は混乱の様相を強め、それと同時に、世俗主義にも後退の兆候がみられはじめた。

英領インド時代に結成された、「ヒンズー大政党」とその支持団体である「国家奉仕隊」(RSS)は、ヒンズー至上主義を唱える政治結社として存在してきたが、1948年1月に起きた聖雄マハトマ・ガンジー暗殺事件に関与したとして、一時その活動を停止された。しかし、その後に禁が解かれるや、前者はコングレス党の後退に乗じて年々党勢を拡大し、現在では「インド人民党」(BJP)と党名を変え、中央において連立政権の主導的地位を占めるに至っている。後者はヒンズー至上主義を唱える姿勢を一層明確にし、BJPへの影響力を強めてきている。

インドは1998年5月に、中国とパキスタンからの軍事的脅威に対処するためとの理由で、24年振りに核実験を強行したが、表向きの理由はどうであれ、その内実は、やっと政権の座にたどりついたBJPが、核実験をめぐる選挙公約を実行することにより、国民の支持を一気にとりつけ、コングレス党に代わる全国政党としての地位を確保しようとする、内政的な考慮に基づくものであったとみられる。BJPが核武装を目指すインドを前面に押しだすに及び、インドの政治的体質は確実に変容を遂げつつある。かかる状況のもと、BJP主導連立政権の右寄りの姿勢に影響されて、インド国内に核武装の推進を当然視する風潮が強まりつつあることが危惧される。

BJPが政治の中心に躍り出て以来、弾道ミサイルの開発を中心とする軍備の拡充、核抑止力の確保を謳う核戦略の明確化、国防関連予算の未曾有の大幅増額といった一連の動きにみられるように、同党は右寄りの姿勢を更に強めてきているが、そのことが強く影響して、インド人の間に、特にヒンズー教徒の間にナショナリズムを著しく高揚させるところとなっている。しかし、ヒンズー勢力の台頭は、インドにおけるイスラム教徒を刺激すること必定であり、最悪の場合、ヒンズー至上主義の高まりがイスラム教徒をして、イスラム原理主義に走らす結果となる恐れがあることも否定できない。また、近年ヒンズー過激分子によるキリスト教徒襲撃事件が頻発する傾向が強まっていることは、ヒンズー至上主義の台頭がもたらす避け難い現象として見逃し得ないものである。

BJP主導連立政権の泣き所は、BJPが政権の中心にあるとはいえ、19もの数の地域政党により支えられているため、BJPの政治力には自ずと限界があることであり、同時に、RSSの圧力がBJPの動きを束縛する結果になっていることである。インドが核武装に踏み切った今、インドに核政策の変更を求めることは、現実問題として最早不可能とみられ、世界がインドの核に反対すればする程、インドは一層頑くなになり、孤立化の傾向を強めることが懸念される。それが、南アジア全体の安全保障に影響するところもまた、極めて大きいことは言うまでもない。今、BJPに真に求められるものは、近年ようやく立ち直りの兆しをみせているインド経済の更なる発展に努め、コングレス党が果たし得なかった国民の経済的平等の実現に、インドを少しでも近付ける努力をなすべきであり、核をもてあそぶことによって、インド国民を誤ったナショナリズムに追いやるべきではないとの点である。
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