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RIM 環太平洋ビジネス情報 2000年7月No.50

タイにおける資金循環構造の変化と持続的経済成長の条件

2000年07月01日 さくら総合研究所 主任研究員 大泉啓一郎


要約

タイ経済は1999年から回復基調にあり、その過程も公共投資・輸出主導から民間部門の投資・消費主導へと順調なプロセスを辿ってきた。これを受けて内外の関心は、タイ経済が再び成長軌道に回帰できるか否かという、中長期的な展望に集まるようになってきた。本稿では、80年代以降の経済成長と資金の流れ(以下、資金循環という)との関係に注目し、タイの資金循環構造の特徴を明らかにするとともに、中長期的にみて同国の持続的な経済成長に対していかなる課題があるかを考察してみた。

タイ経済は87年~96年に高成長を遂げ、産業構造や輸出構造を著しく変化させた。この期間における高水準の国内投資は、海外からの巨額な資金流入とともに、国内貯蓄の増加によって賄われていた。80年代以降の資金の流れを民間部門、政府部門、海外部門についてみると、高成長期に著しく変化したことがわかる。税収増加を背景に政府部門が資金供給者となり、海外からの資金流入とともに、企業を含む民間部門の旺盛な投資をファイナンスしてきた。しかし、通貨危機を経て、この資金循環構造は調整されつつある。

87年~96年の高成長は、その投資・貯蓄構造から87年~91年と、92年~96年とに区分することができる。高成長期の前半では、海外からの直接投資を含め民間投資が国内投資急増の主役であったが、これらの投資は海外からの直接投資を柱とした資金流入と家計貯蓄が中心の国内貯蓄によって支えられていた。一方、高成長期の後半には、政府の建設投資拡大もあって国内投資は高水準を維持したものの、投資効率が著しく低下した。投資のファイナンス源は、海外からの資金では直接投資から短期資金借り入れへ、国内貯蓄では家計貯蓄から政府貯蓄へと主役の交替がみられた。

投資・貯蓄面からみて、タイが今後持続的な経済成長を実現する条件は以下の通りである。第1に、投資面で資金の効率的な配分を図るとともに、技術・ノウハウなどを含む生産性向上策(例えば、人材開発、研究開発)を進めて投資効率を引き上げることである。第2に、直接投資誘引策や証券市場の整備を通じて、短期資金借り入れに代わる海外からの資金の誘引を促進することである。第3に、今後予想される政府部門の貯蓄減少を補うべく、金融システムの再建や資本市場の整備・育成を通じて、家計貯蓄の増強策を講じることである。
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