RIM 環太平洋ビジネス情報 1999年10月No.47
新世紀に向かうアジア経済と日系企業のアジア戦略
1999年10月01日 さくら総合研究所 向山英彦、川手潔、大八木智子
要約
アジア経済を取り巻く環境は、大きく変化している。第1は、通貨危機による影響である。アジアは全体として景気回復過程にあるといえるが、自動車販売台数や内需型産業の稼働率の低さに示されるように、内需の回復度はまだ弱い。通貨危機の影響を強く受けた国では、(1)金融システムの安定化と改革、(2)規制緩和、(3)企業ガバナンスの構造改革が実施されている。外資に対する規制緩和を受けて、海外の資金(M&Aを含む)が再びアジアに流入してきている。一方、アジアの財閥企業の中には、従来の事業多角化を見直す動きが出てきている。
第2は、自由化への対応である。WTOは、現地調達要求や輸出入均衡要求などを禁止しており、2000年までにアセアンを中心とする途上国に対し、上記制限措置を撤廃するように求めている。中国のWTO加盟は、内外経済に多くの影響を与えると考えられるが、日系企業にとっては、知的所有権の保護、貿易権の取得、内国民待遇の付与、投資認可分野の拡大などによって、現地での販売拡大や、日本からの投資、貿易の拡大が期待される。
第3は、欧米企業のアジア進出である。経済危機に陥ったアジアに対する欧米企業の投資行動には、二つの動きがある。一つは、M&Aを活用して新たな事業基盤を構築する動きで、分野では化学、金融、セメントが多い。もう一つは、次世代製品の投入を目的とした生産設備増強の動きである。
このようにアジア経済を取り巻く環境が変化している中で、日本企業の中には、国内で事業の再構築を進める一方、アジアでも拠点機能を転換したり、見直す動きが出ている。内需型産業では、アジアの拠点間で分業を拡大するほか、グローバルな視点から輸出生産基地に転換する動きが出ている。
産業別にみると、鉄鋼産業では、アジア拠点ないしはアジア事業を、グローバル戦略の中で位置づける動きが出ている。NKKが、グローバルな規模での分業を目指す中で、タイ拠点をアジアへの輸出生産拠点とする戦略を策定したほか、川崎製鉄は韓国の圧延メーカーに出資して、半製品を積極的に輸出する戦略を打ち出している。
合繊業界では現在、グローバルな規模で、コスト競争力のあるメーカーを中心とした寡占化が進んでいる。こうした中で、わが国合繊企業の中にも、日・欧・アジア・NAFTAの4極体制を築く動きが出ている。東レでは、適地生産、適地販売を目指し、内外の東レ・グループ各社が有機的に連携することで、連結業績における利益の極大化を図る「グローバル・オペレーション」を推進している。
重電産業は、経済危機の影響を受けた産業の一つであり、アジアの発電プラント市場が縮小傾向にあるなか、国際入札をめぐる企業間競争は激化している。日本の重電メーカーの間にも、これまでの市場重視から、グローバル市場を視野に入れた輸出展開の動きがみられ始めている。
鉄鋼、合繊、重電の3つの産業の動きから共通して導き出されるのは、日本企業には、(1)市場環境の変化を踏まえた明確な競争戦略を策定すること、(2)それに基づいた「選択と集中」を図ること、(3)グローバルな視点からアジア事業やアジアの拠点機能を位置づけること、が必要となっていることである。逆にいえば、こうした長期的な戦略なしでは、これからのアジア事業は難しいといえる。