RIM 環太平洋ビジネス情報 1999年10月No.47
韓国、台湾における民間企業の経営監督システム
1999年10月01日 さくら総合研究所 大木登志枝
要約
本稿では、似通った経済発展過程を経てきた韓国と台湾において、通貨危機によって受けた影響に差が生じたのは、企業経営システムと関係があるのではないかという問題意識のもと、「経営の監督」に焦点を当てて、韓国、台湾の企業経営と、その環境の比較を試みた。経営の監督方法には、企業の内部機関によるものと、外部の利害関係者によるものがある。
韓国企業では、所有と経営が未分離であり、総帥の支配力が絶対的であったため、内部機関(主として取締役会)による監督は機能しにくかった。企業の主たる資金調達手段は銀行借り入れであり、制度金融はすべて政策金融的色彩が強かったため、外部からの監督機能は、政府が担っていた。日本の場合と異なり、銀行は監督機能を持たなかった。政策金融の下で、韓国企業には、借り入れ依存・過剰投資という企業体質が醸成された。80年代以降、韓国経済はある程度の発展段階に達し、金融自由化が推進され、企業の資金調達手段が多様化した。90年代に入ると、政府の監督機能は低下していったが、借り入れ依存の企業体質は温存され、通貨危機につながっていった。
台湾企業においても、所有と経営が未分離であったが、株主が出資分に応じて経営に参画するという慣習があり、複数の共同経営者(パートナー)に支配力が分散されていた。資金は、主として自己資金を利用し、未組織金融市場から調達することも多かった。台湾企業には、家族企業が多く、家族の資産蓄積にもつながる企業利益の増大を重要視していることから、主要株主(オーナー一族など)でもある取締役自身に自己規律が働き、内部機関による監督が、ある程度機能した。制度金融への依存度は低く、資本市場は十分育成されておらず、外部による監督はほとんど存在しなかった。韓国の場合と最も異なる点は、資金調達と意思決定に関して、政府がまったく介入しなかったことである。韓国政府が国の経済成長を図るために企業を利用したのに対し、台湾では、国民党政府と、本省人が中心の民間企業との間に、一種の対立が存在していた。
韓国、台湾では、政府、企業、銀行の関係が変化しつつある。両政府とも、時代の要請に応えるべく、自らの役割を、自由市場経済を確立するための制度的な環境整備を行うことにあると認識するようになり、現在、金融の制度化、資本市場の整備を進めている。今後、企業は、多様な資金調達手段の中から、自らのリスクにおいて選択することになる。伝統的方法を維持する企業もあろうが、金融・資本市場からの調達を行う企業が増加するだろう。その際、外部からの監督機能は、銀行などの金融機関や、市場を通して投資家が担うこととなろう。