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RIM 環太平洋ビジネス情報 1999年10月No.47

マレーシアの金融改革の中長期的展望
健全な金融システム構築に向けて

1999年10月01日 さくら総合研究所 横江芳恵


要約

通貨危機に見舞われたアジア諸国は、それぞれ金融改革に取り組んでいるが、その中でもマレーシアは、自由化の流れに逆行するかのように資本取引規制策を導入して、世界の耳目を集めた。同政策を含む通貨危機対策は一定の効果を上げたが、今後、通貨・金融危機の再発を防ぎつつ、マレーシアが成長軌道に復帰するためには、金融システムのさらなる強化・安定化が不可欠である。

マレーシアでは1980年代後半以降、民間主導型経済への転換とともに、金融システムの整備・育成が進められた。基本的には自由化を進めつつも、必ずしも自由化一辺倒ではなく、また、ブミプトラ政策が金融システムに影響を及ぼしてきたことが特徴である。銀行部門では、国内金融機関の保護・育成が優先され、外国銀行の参入を制限すると同時に、国内金融機関の強化や安定化が進められた。しかしながら、銀行の集約化や効率化は必ずしも十分ではなく、また、融資分野が非生産分野に偏るなどの問題を抱えていた。

資本市場も、積極的な育成によって、規模的には順調に発展してきた。特に株式市場は、経済成長と歩調を合わせながら、著しく拡大した。しかし、流通市場の未発達、ブミプトラ政策による市場の価格形成の歪み、証券購入融資などにみられる銀行部門との強いリンケージなどの問題を残している。経済発展に必要な資金の調達に関しては、国内資金の動員に必要な制度が整えられたことに加えて、不足分は海外からの資金流入によって賄われた。特にポートフォリオ投資が活発であったが、通貨危機の発生した97年には、同投資が大幅な流出超に転じて、経済に大きな打撃を与えた。

通貨危機対策として、第1に、政府主導の下で銀行部門の不良債権処理が進められた。これにより、不良債権比率の上昇や、銀行貸出残高の低下基調は一段落している。さらに、99年7月には、大規模な銀行再編計画が打ち出され、金融構造改革にも着手した。第2に、98年9月に、資本取引規制策と固定為替相場制が導入された。これらの施策によって、金融環境の改善、実体経済の回復が実現した。今後は、規制の解除・撤廃のタイミングと方法が焦点となろう。

通貨危機は、金融システムの安定の維持や、金融部門の対外開放をどのように進めるべきかという問題を改めて示した。マレーシアは銀行部門、資本市場のそれぞれで改革を行う必要があるが、これらの改革は当面、政府主導の下で進められることになろう。しかし政府は、市場原理や競争原理が働くような環境を整えることにより、将来的にはその役割を縮小していくことが望ましい。なお、マレーシアの場合、金融システムの強化・安定化を進める上で、ブミプトラ政策が制約要因となる可能性がある。
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