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RIM 環太平洋ビジネス情報 2000年10月No.51

「台湾本土化」が進む台湾

2000年10月01日 さくら総合研究所 上席主任研究員 小林重雄


要約

台湾は台湾を本土として生きていくという住民の民意を体現した行政理念が年毎に濃厚になっている。

第2次大戦後の台湾では中華民国政府(国府)の全中国を代表する政府というイデオロギーのもとで、大陸から持ち込まれた政治、社会制度などがそのまま用いられてきた。これら制度を台湾の実情に則したものに改めていくことが、すなわち民主化、台湾化であったが、90年代後半頃から「本土化」と呼ばれるようになった。そこには台湾は台湾を本土として生きていくという住民の民意を主体とした行政理念がある。

台湾住民のマジョリティーを占める台湾人は、「本土化」路線推進によって初めて台湾が自分の国であるという実感を持つようになったといわれる。「本土化」路線は、今年5月、台湾土着の政党、民進党の陳水扁総統誕生で加速することが確実である。

陳総統新政権のもと、短期間で見せた顕著な改革は、黒金(政界、経済界に巣くうやくざ、党有力者の汚職、特権による司法からの逃避などの現象)撲滅への毅然とした行動であり、庶民から最も支持されている。反面、最も期待し得ないものは、中台関係の改善である。国家観の違いから、中国は台湾の「本土化」路線を最も恐れている。

「本土化」は着々と進行している。台湾元紙幣発行銀行は台湾銀行から中央銀行となった。高校、大学の国家統一入試は廃止が決定し、中学では台湾の地理、歴史が教えられるようになり、小学生は北京語の他に台湾語などの郷土言語履修が必須となった。国家予算編成においては社会福祉費のシェアが1位となり、戦後一貫して1位を占めた国防費は3位へ後退した。ただ累積する財政赤字の解消が大きな課題となっている。

新政権が誕生しても大きな変化はないというのは皮相的な見方である。総統の相談役である総統府資政、国策顧問には過去、台湾独立運動などで国賊と認定され、海外逃亡生活を送ったり、長期間牢獄に収監されたりしていた闘士が多数任命された。新政権のこの人事をみれば、「台湾人の台湾」建国が目標であることは自明である。

台湾は欧州型民主小国家に近づいていくであろう。社会福祉が徐々に重視され、増税も見通されるため、過去のような高い経済成長は困難となり、安定型成長に入ると予測される。国際孤立打破のため、実務外交展開継続能力が鍵となる。
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