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RIM 環太平洋ビジネス情報 2004年10月Vol.4 No.15

ASEAN4と中国の少子高齢化とマクロ経済に及ぼす影響
「開発途上国の少子高齢化」の視点から持続的な経済発展を考える

2004年10月01日 調査部 環太平洋戦略研究センター 大泉啓一郎


  1. 少子高齢化は先進国特有の問題ではなく、東アジア全域で進展している。アジアNIEsの合計特殊出生率は2.0人を下回り、高齢化率は7%を超えている。この兆候はASEAN4(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン)や中国でも確認出来る。ただしASEAN4と中国は、日本やアジアNIEsに比べて経済水準が低く、社会保障制度が未整備であるため、「開発途上国の少子高齢化」という異なった視点から捉える必要がある。

  2. ASEAN4と中国の人口動態をみると、「多産少死」から「少産少死」の段階に加速度的に移行してきたことが特徴である。その結果、人口構成は年少従属人口が多い「富士山型」から生産年齢人口が多い「釣鐘型」へと変化してきた。

  3. 国連の人口推計(中位推計)は、合計特殊出生率が1.85人で収束することを前提としているが、ASEAN4と中国の合計特殊出生率はこれよりも低くなると見込まれ、これに伴い高齢化のスピードは日本と同様もしくはそれよりも速くなる可能性がある。

  4. 少子高齢化は様々な経路を通じてマクロ経済に影響を及ぼす。第1に、a.労働投入量の減少、b.国内貯蓄率の低下により潜在成長力を押し下げる。 ASEAN4と中国の労働力人口の増加率はすでに低下局面に入っており、ライフ・サイクル仮説によれば国内貯蓄率もこれまでのように高成長を支える原動力ではなくなる。このような労働力や貯蓄率の負の影響を補てんするためには、全要素生産性(技術力)を高めることが不可欠であり、教育を通じた人的資本の充実、外資導入や金融システムの近代化による資本効率の改善などの競争力強化戦略が重要になる。また、ASEAN4と中国が一定の経済成長率を維持できたとしても、高齢社会を迎えた時点の経済水準は先進国に比べかなり低くなるという問題がある。

  5. 第2に、少子高齢化の進展は、a.医療費の増加、b.年金負担の増加を通じて、財政や家計を圧迫することが考えられる。医療費と年金負担という高齢化の負担は、各国の社会保障制度の整備にあわせて増大する。ASEANにおいては2000年のGDP比3~4%から2020年に6~7%、2040年には8~9%に上昇し、中国では2020年以降10%を上回る可能性がある。社会保障制度の内容次第では、高齢化の進展に伴い財政基盤が揺らぐ危険性がある。

  6. 少子高齢化がマクロ経済に及ぼす影響は今後時間とともに大きくなろう。持続的な経済発展をより確実なものにするために、ASEAN4と中国は少子高齢化への対処を含めた開発戦略と社会保障制度の構築に取り組む段階にきている。

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