RIM 環太平洋ビジネス情報 2000年10月No.51
【特集:アジアの産業集積II】
最適な部品調達を目指す日系電気・電子メーカー
珠江デルタ地域を事例に
2000年10月01日 さくら総合研究所 副主任研究員 大八木智子
要約
企業は産業集積に生産拠点を設立することにより、部品・資材確保の利便性を高めることができる。こうしたメリットを考え、集積が形成されているアジア地域に拠点を置く日系電気・電子メーカーは少なくない。
他方、世界的に部品のインターネット調達が導入されるなど、部品調達の方法が多様化している。ネット調達の進展は、サプライヤーが近接立地することによる集積のメリットを補完すると考えられる。
近年、IT産業の生産拠点として、華南の「珠江デルタ地域」が注目されている。同地域には、台湾のパソコン周辺機器メーカー、日本の複写機メーカー、日本、香港、中国の家電メーカーなどが多数立地している。
珠江デルタ地域で事業を行っている日系企業の部品調達をみると、近接する日系、非日系メーカーを活用しながら現地調達を進め、効率的な調達体制の構築に努めている。しかし、現状では、地場企業をはじめとする非日系メーカーが品質や納期などの問題を抱えていることを背景に、日系企業の調達が集積内で完結することは難しい。
そうした問題点をカバーするために、日系企業は、基幹的な部品生産や加工生産能力をできるだけ社内に保有すること、あるいは、広域的な外注を行うことで対応している。
珠江デルタでは、現時点においてはネット調達の浸透度は低いが、将来的には、進展していくことが予想される。ネット調達と産業集積のメリットを比較してみると、新規取引先の獲得やコスト削減など、類似したメリットがあることに気付く。
その一方で、サプライヤーが近接立地することによる、産業集積ならではのメリットもある。一つは、設計・開発面において、近接するセットメーカーとサプライヤーが頻繁な意見交換を行うことは、仕様の改善や変更の対応を平易化させると考えられることである。もう一つは、フェイス・トゥー・フェイスの交流は、分業を行う適切な取引相手を見つけ出す有効な手段であることが指摘できる。
今後、ますます競争が激しくなるアジアの電気・電子業界で、日系企業が優位に立っていくためには、産業集積、ネット調達それぞれのメリットを活用した部品調達を行い、最適な調達体制を構築していくことが望まれるといえよう。