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RIM 環太平洋ビジネス情報 2000年10月No.51

【特集:アジアの産業集積I】
電気・電子産業の高度化における集積の役割

2000年10月01日 さくら総合研究所 主任研究員 竹内順子


要約

アジアにおける電気・電子産業の生産規模の拡大は、アジアに産業集積ともいうべき、地域の形成を促した。アジアにおける産業集積は輸出型の外資系企業を中心に形成されてきたが、台湾、韓国を除く諸国では、未だにその性格を強く残しており、外資系企業間の取引を中心にした拡大が続いている。

90年代に入り、アジアの電気・電子産業では、(1)世界的な情報化の進展に伴う情報機器生産の拡大と生産様式の変化、(2)労働力、市場の潜在力で優位性の高い中国の本格的な参入による影響が顕在化しており、中国の華南では台湾企業を中心に従来にない層の厚い集積の形成が進んでいる。商品サイクルの短い製品の生産では、柔軟性、迅速性を左右する集積のあり方がクローズアップされており、産業立地の優位性として、人材の質、サプライヤーの充実度など、生産基盤の質が重要性を増している。多国籍企業はアジアでの活動を多様化しているが、活動内容の高度化とともに拠点の立地再編に対する集積の影響が強まることが予想される。

現在、アジア各国の政府では情報技術(IT)産業を次世代産業発展の核と位置づけ、振興を加速している。具体的には、IT分野で先端的な技術、サービスの発信地でありつづけるシリコンバレーに注目し、知識集約型産業の生成と発展のために類似した集積を政策的に作りだそうとする動きである。こうした動きは、ハードウエアの生産に特化して成長してきたがゆえに、限界があった研究開発活動の活発化に貢献する可能性がある。

集積を核にした産業高度化の成功事例に新竹科学工業園区(以下、新竹)がある。新竹は台湾の産業高度化のための中核として80年に開設された「アジア版シリコンバレー」の元祖ともいえる存在である。新竹は研究開発型の企業を誘致し、近隣の大学、研究機関と連携する場として、情報機器、ICなどの産業を育んできた。

新竹は外資系企業誘致から出発したハイテク産業育成において地場企業主導への転換と高度化を実現した好事例であり、同様の経緯を辿って、成長しているアジア各国に示唆するものは多い。とりわけ、人材を引き付け、起業させるインキュベータとしての役割が注目される。本来的には、資本集約性が高く、参入機会が小さいIC産業においても、企業間分業の発達が外部資源の活用による新規創業を促すことを示した。ただし、こうした資源の蓄積にはそれなりの時間と財政の投入の裏づけがあった点を認識する必要がある。

新竹で誕生したベンチャーともいうべき企業群からは現在の台湾を担う多くの企業が輩出されている。これらの企業はソフトウエア産業などへと多角化すると同時に、外部に新たな集積を形成しつつある。新竹の成功は集積に集中的に投じられた資源が大きな成果を生んだことを示すものといえよう。
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