RIM 環太平洋ビジネス情報 2004年7月Vol.4 No.14
IMF支援対象国(韓国、タイ、インドネシア)における金融危機克服に向けた政策体系と政府の役割
2004年07月01日 環太平洋研究センター 高安健一
- 本稿は、1997年に経済危機に見舞われIMFの支援プログラムが適用された韓国、タイ、インドネシアにおける80年代から2003年末までの金融制度改革の経験を、a.金融の自由化・国際化の推進、b.金融危機管理政策の実施、c.本格的な金融再建策の展開、d.将来の危機回避に向けた金融制度改革の推進という四つのフェーズに分け、金融危機を克服するための政策体系について考察するものである。
- 政府は、多くの銀行が支払い不能(≒債務超過)に陥った場合に、抜本的な金融再建策を実施しなければならない。3カ国とも、銀行のバランスシートから不良債権を切り離す「狭義」の金融再建策では大きな成果を残した。しかしながら、企業部門の債務再構築や事業の整理・統合などを含む「広義」の金融再建策については一様に足踏みした。
- 韓国は、金融危機管理、金融再建、金融危機回避のすべての局面で、必要な改革を的確に実施した。しかも、金融危機対応の初期段階より、国際標準や国際競争力を強く意識していた。金融機関の再編、そして将来の危機回避に必要な金融監督機関の強化にも積極的に取り組んだ。2001年1月に全額預金保護制度から部分預金保護制度への移管を予定通り実施したことは高く評価出来る。
- タイは、時間の経過とともに金融制度改革へのモメンタムを失っていった。公的な資産管理会社の設立が遅れるとともに、不良債権処理も中途半端なものに終わった。タイの金融制度改革は、80年代の小規模な金融危機への対応と同様に、将来の金融危機回避に不安を残すものとなった。
- インドネシアは、3カ国のなかでもっとも深刻な金融危機に見舞われた。しかしながら、公的資金を活用することにより、狭義の金融再建を99年にほぼ終えた。ただし、企業部門の債務再構築は進まず、裁判制度にも大きな課題を残した。将来の金融危機回避のための枠組みが整ってきたものの、金融監督体制の将来像は描けていない。
- IMFが97年以降に果した役割は、多くの国々の事例を比較検討しながら蓄えられてきた政策体系の提供、危機管理のための具体的な手法、政府主導による金融再建の後押し、マクロ経済政策フレームワークの提供、将来の金融危機回避のための国際標準の作成などであった。
- 金融危機は、「市場の失敗」、「政府の失敗」、そして「制度の失敗」によって引き起こされる。政府による金融制度の設計力が、金融危機克服の鍵を握る。政府は、金融再建策を着実に推進するための体制を早急に整えるとともに、自らがいかなる責務を負い、どの役割を金融機関に託し、何を市場メカニズムや外国資本に委ねるのかという、基本構想を明確にすべきである。政府は、直接的、間接的に関与することにより、目前に広がる危機の克服と将来の危機回避に資する金融制度改革を早急に、しかも着実に実施しなければならない。97年以降の3カ国の経験から浮かび上がった政府の役割として、a.情報の非対称性を緩和するための健全性規制の強化、b.民間銀行の信認の補完、c.民間セクターによる事業環境の予見可能性向上につながる政策、d.金融監督機能と市場規律の統一的強化、e.損失分担(ロス・シェアリング)を円滑に進めるための制度整備などが指摘出来る。