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RIM 環太平洋ビジネス情報 2004年4月Vol.4 No.13

変わるASEANの経済統合力学
成長波及効果の実証分析

2004年04月01日 向山英彦


要約

  1. 通貨危機後、経済成長率の低下や外国直接投資の中国へのシフトなどから、ASEANの地盤沈下が指摘されたが、近年、新しい動きがみられる。一つは各国における新たな成長戦略の追求であり、もう一つは域内経済統合の推進と域外との経済連携の強化である。

  2. 域内経済統合に関しては、ASEAN自由貿易地域(AFTA)が2003年に本格的に始動した。またASEANを軸とした東アジア地域の経済連携の動きが活発化している。ASEANは2003年から中国との間でFTA(自由貿易協定)交渉を開始したほか、インドとは2004年、日本とは2005年から交渉を開始することで合意した。

  3. ASEANにおいて域内経済統合の動きが本格化したのは90年代に入ってからである。AFTAやASEAN産業協力制度(AICO)、ASEAN投資地域(AIA)などが相次いで創設された。この背景には、a.世界的な地域経済統合への動き、b.経済のグローバル化への対応、c.外国直接投資の中国へのシフト、などがあった。

  4. ASEAN4の域内貿易依存度は、91年の4.5%から2002年に7.8%、2003年上期には7.9%に上昇した。シンガポールを加えた ASEAN5の域内貿易依存度は、91年からの19.8%から2002年に22.0%、2003年上期には21.2%となった。ASEAN5の日本を含む東アジア域内貿易依存度は91年の50.1%から2003年上期には52.9%に上昇した。

  5. ASEANに内在する特有の制約要因にもかかわらず、ASEANの域内貿易が拡大した背景には、ASEAN諸国と他の東アジア諸国との相互依存の拡大がある。ここにASEANが他の東アジア諸国との経済連携の強化を図る経済的理由がある。

  6. 二国間もしくは地域内の経済統合が進むと、経済の連動性が強まると考えられる。逆に、経済の連動性の高さは、相互依存の強さを示唆する。1980年代後半以降の各国の実質GDP成長率の相関関係をみると、東アジア諸国と日本の間にプラスの相関、またASEAN諸国間に強いプラスの相関があることがわかる。

  7. 成長の波及効果の分析では、日本を含む東アジア域内諸国が成長すると、ASEAN各国の成長が押し上げられることが明らかになった。このことは、ASEANが域外とくに日本との経済連携を強化することの合理的根拠を与える。

  8. 他方、ASEAN10への拡大により、ASEANデバイドが問題となった。域内格差を解消しASEANの求心力を維持するためには、日本や韓国からの支援が不可欠である。ASEANが域外との連携に向かう政治的理由である。また、対中依存が強まることは、外交政策の自由度を損なうリスクをともなう。 ASEANがインドや日本との関係の強化をめざす背景には、この点に対する認識があったと考えられる。

  9. 日本はASEANとの経済連携協定の締結にあたり、ASEAN後発国に対する支援に力を入れることが望まれる。なかでも、ASEAN先発国と後発国の経済・産業面におけるネットワーク化の推進に力を入れることが重要である。
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