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RIM 環太平洋ビジネス情報 2004年4月 別冊

2003/2004年アジア主要産業の回顧と展望-経済連携の始動

2004年04月01日 環太平洋研究センター 竹内順子、環太平洋研究センター 森美奈子


要約

  1. 2003年のアジア製造業
    2003年のアジア主要国における製造業の生産は、SARSの影響から4~6月にかけて低迷した国が多かったものの、通年ではすべての国で前年比プラスとなった。韓国、台湾、シンガポールで前年に比べて伸び率が鈍化した一方、自動車生産が急拡大したタイと中国では2年連続して最も高い伸びを示した。輸出は、秋口から回復が鮮明になり、多くの国が2桁の伸びを達成した。特に、中国と韓国が好調であった。

  2. エレクトロニクス産業
    2003年は年初のイラク戦争の勃発と春先からのSARSの流行によって、IT需要の回復に対する懸念が強まった。しかし、a.先進国におけるIT投資の回復、b.携帯電話の上位機種への移行、c.デジタル家電の普及拡大などの要因から、アジア主要国におけるエレクトロニクス製品の生産・輸出は好調であった。

    特に、中国では、先進国のIT投資回復による影響を強く受けて情報機器の輸出が大幅に増加し、エレクトロニクス製品の輸出額は前年比51.0%増と大きく伸びた。一方、電子部品・デバイスを中心に輸入額も前年比48.9%増となった。主要な電子部品の輸入先である日本、韓国、台湾は中国の生産拡大によって大きな恩恵を受けた。中国が最終財のグローバル供給者としての役割を強め、それとともに近隣諸国は中国向け中間財供給者という役割を強めたということができる。

    台湾では、情報機器の生産に占める中国の割合が6割を超える一方で、島内では液晶パネル、半導体の生産が増加し、電子製品の輸出に占める電子デバイスの割合は約4割となった。台湾企業は携帯電話、デジカメに続くOEMビジネスの対象として、デジタル家電に対する関心を強めている。韓国では、内需が低迷するなか、輸出は好調であった。牽引役は対中輸出であり、その規模はほぼ米国向けに並んだ。ASEANでは、タイを除いてIT需要の回復による恩恵は小さかった。ICのパッケージング(後工程)拠点としての役割は高まっているが、情報機器の輸出拠点としての役割は低下しつつある。直接投資の受入は低迷が続いており、国際分業の中で新たなポジションを開拓するために、直接投資の誘致や産業支援を工夫し、近隣諸国と異なる優位性を確立する必要に迫られている。

    2004年も世界の電子製品に対する需要は堅調に推移すると見込まれており、アジア諸国における電子製品の生産・輸出は高水準になると予想される。 2004年の注目点は、a.貿易摩擦、税制変更などにともなう中国の輸出環境の悪化、b.グローバル市場の拡大に伴うデジタル家電の生産体制の変化、 c.ASEANを中心とするHDD生産配置の変化、d.日本とアジア諸国の関係などである。

  3. 自動車産業 2003年には、自動車市場および生産国としての中国の存在感が一段と高まった。都市を中心とした自家用車に対する需要の急増を背景に、販売台数は世界第3位の439万台、生産台数は同4位の444万台へと増加した。ASEANでは、生産台数が75万台に達したタイが、域内で突出した生産国となった。また、マレーシアを除く原加盟5カ国においては、域内関税が低下したことにより、完成車も含めた域内分業が活発化するとともに、タイを乗用車、インドネシアを多目的車の供給拠点とする分業体制の再構築が進んだ。

    2004年の生産・販売台数は、全ての国で増加が見込まれている。中国では、モータリゼーションの進展に備えた自動車メーカーの大型投資が本格化する。これに対応した部品・素材メーカーの投資も活発化しよう。自動車メーカーは、急成長する中国市場での販売シェアの確保に最優先で取り組んでいる。能力増強投資は国内供給を想定したものがほとんどであり、中国からの完成車の輸出余力は限られる。部品については、米国や日本の企業が自国のコスト削減を目的に中国製部品の採用を積極化しているため、輸出の増加が見込まれる。ASEANでは、タイにおいて、完成車輸出の拡大を背景に年産100万台体制の実現も視野に入ってきた。域内分業も深化し、各拠点から世界への部品輸出も増加しよう。韓国では、輸出を現地生産で代替するための海外投資が活発になってきた。

    日本の自動車・部品メーカーは、当面中国とASEANをそれぞれ独立した事業単位としてアジア戦略を展開するが、中国における生産体制が整う数年後を目指して、アジア全体として最適な分業体制の構築に取り組むことになろう。アジアにおいて貿易の自由化が進展すれば、企業は国境を超えた生産体制の再編を実施しやすくなる。その一方、各国が国内産業育成を目的に保護主義的な政策をとることにより、企業の事業展開が制約されるリスクは払拭できない。企業は、各国の政策を見極めながら、中長期的な視点からアジアにおける分業体制の再構築に取り組むことになろう。
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