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RIM 環太平洋ビジネス情報 2002年別冊版

2001/2002年アジア主要産業の回顧と展望
中国の台頭と生産分業の再編

2002年03月01日 環太平洋研究センター 竹内順子、環太平洋研究センター 森美奈子


要約

  1. 2001年のアジアの製造業

    アジア主要国の製造業の生産活動は2000年後半から2001年前半にかけて、中国を除く国・地域において大きく落ち込んだ。製造業の生産額に占めるエレクトロニクス産業の比率が大きい国ほど落ち込みは大きかったが、シンガポールを除く各国では2001年後半から回復の兆しがみられる。輸出額も、2001 年9月以降、多くの国で前年同月比のマイナス幅が縮小傾向にある。しかし、2001年通年としては中国以外の国で輸出は前年を下回った模様であり、アジア諸国にとって厳しい1年であったといえる。

  2. エレクトロニクス産業

    2000年に好況を謳歌したアジアのエレクトロニクス産業は、2001年には世界的な情報技術(IT)製品の販売不振により、打撃を受けた。パソコン、携帯電話の世界出荷台数は前年割れし、半導体出荷額も前年比▲32%という大幅なマイナスを記録した。先進国の情報・通信機器メーカーでは大規模なリストラクチャリングが相次ぎ、アジアの子会社にも影響がおよんだ。2001年の動向からみると、企業の生産配置は設立時期の早いシンガポール、マレーシアなどの先発拠点から、中国をはじめとする後発拠点に重点を移すようになってきている。IT製品の生産台数でみても、シンガポール、マレーシアの生産が減少する一方、台湾、中国の生産は堅調に伸びている。市場縮小のなかで厳しさを増す競争によって、企業のアウトソーシング先、生産立地に対する選別が強まったことを反映している。

    2001年の中国のエレクトロニクス産業は、企業間競争の激化、農村部における消費の伸び悩みなどの問題を抱えながら、堅調に生産、輸出を伸ばした。 2000年には生産額でアジアの首位に立った中国であるが、2001年には人材の豊富さという優位性を背景に外資系企業による研究開発活動の活発化、IC 生産拡大の本格化など、高度化に向けた動きが強まった。しかし、一方では、2002年に市場開放が現実のものとなり、国内企業の再編・淘汰、外資系企業の戦略転換などの変化が表面化するものとみられる。

    2002年に入り、パソコンの受注で回復の兆しがみられること、企業間格差はあるものの、ファウンドリの稼働率が向上していることなど、明るい材料が増えている。アジア各国のエレクトロニクス産業は競合という側面と同時に、中間財の相互貿易を通じた分業という側面を備えており、生産の回復は一部の国に止まらず、貿易を介して、近隣諸国に波及していく可能性が大きい。しかし、2002年の主要製品の市場は回復が見込まれるとはいえ、伸び率は依然として低い。エレクトロニクス産業の生産回復にも国ごとに濃淡が出よう。

  3. 自動車産業

    2001年は、完成車メーカーのアジア戦略において、中国とタイがその重要性を高めた1年であった。日米欧韓の完成車メーカーは、2001年12月の中国の世界貿易機関(WTO)への正式加盟を契機とする規制緩和やモータリゼーション時代の到来を見込んで、新たな中国戦略を始動させた。また、 AFTA(ASEAN自由貿易地域)の実現にともなう域内関税の引き下げは、ASEANで事業を展開する企業の選択肢を広げ、比較優位に基づいた生産拠点の再配置を促すことになる。その結果、多くの完成車メーカーが、タイをASEANの中核拠点として、さらには世界への完成車輸出基地と位置付けて、より高度な機能を移管し始めた。

    アジアにおいて貿易自由化の機運が広がりつつあるなかで、企業はアジア拠点の最適活用を模索し始めている。とりわけ、企業が、アジア戦略の核としての中国とタイの拠点に、経営資源を重点的に配分する傾向が強まると考えられる。

    日本企業も、日本を含めたアジア全体としての生産分業体制の構築を迫られており、日本とAESANの中核拠点としての、そして中国との間でいかなる企業内分業を築くかが課題となる。コスト削減努力が続く日本において、すでにアジアからの部品の逆輸入は拡大傾向にある。完成車の逆輸入も国内の生産体制を補う形で徐々に増加していくであろう。

    近年、デジタル技術や情報通信ネットワークの発達により、日本やアジアの生産拠点の間では多様な分業形態が可能になろうとしている。アジアにおいては、各国のニーズに合致した製品を、適切なタイミングで投入するとともに、1国あたりの市場規模が小さいなかで利益を生み出すことのできる仕組み作りが求められる。新しい技術を活用しながら、日本とアジアを結ぶ新しい企業内分業体制を構築する動きはすでに始まっている。
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