RIM 環太平洋ビジネス情報 2002年4月Vol.2 No.5
変貌するアジアを巡る国際資金フローと日本の対応
2002年04月01日 環太平洋研究センター 高安健一
要約
1990年代後半以降、アメリカの経常赤字と資本収支の黒字が急拡大し、国際資金フローへの影響力を増した。その過程で、アメリカと欧州連合(EU)の間での資本取引の活発化と、アメリカの社債・株式市場への外国からの投資の拡大が進展した。
アジアでは、経常赤字を大きく上回る資金を海外から調達し高成長を実現するという成長パターンは、過去のものとなった。近年、アジアへの民間資金のネット流入額が急減している。そのなかにあって、民間資金が比較的円滑に流入している韓国と、停滞しているインドネシア、タイ、マレーシアとの2極化が進んでいる。
通貨危機の後、アジアの多くの国・地域で投資率の低下を反映し、経常黒字が拡大した。アジアは、経常黒字を外貨建て債務の返済や外貨準備高の積み増しに活用するとともに、アメリカに資本を供給している。
通貨危機の打撃が大きかった国々では、急拡大した財政赤字のファイナンスを、主に国内市場での国債発行で賄っている。投資率の低迷が長期化するなかで消費が拡大を続けた場合に、インドネシアのように貯蓄率が低下し、財政赤字や経常赤字のファイナンスに支障が生じるケースが出てくることが懸念される。
アジアの国際金融センターにおける金融取引が低迷している。オフショア市場残高、外国為替取引高、デリバティブ取引高などは、通貨危機前の水準を下回っている。
日本は、アジアに対して経常黒字を計上しているが、資本供給国としての役割を果たしていない。日本の対アジア投資をみると、直接投資は継続的に赤字(出超)となっているものの、2001年1~6月には、証券投資とその他投資(貸し付け、貿易信用など)がともに大幅な黒字(入超)となった。
邦銀の対アジア与信残高は、97年7月から2001年6月まで継続的に減少した。これに対し、欧米銀行は98年末以降、残高を維持している。米銀や英銀がアジアに現地通貨建て債権を多く保有しているのに対して、邦銀は外貨建て債権の比率が高い。
日本は、経常赤字国への転落が現実のものとなる前に、アジアも含めて金融資産をどのように配分するのかを再検討すべきである。そのためにも、情報収集体制の再構築や東京金融・資本市場の資産運用力の向上が急務である。
今後アジア諸国のリスク勘案後の期待投資収益率が高まったとしても、投資家が以前にも増してリスクに敏感になっていることから、資本流入が停滞する恐れがある。また、国際資金フローが不安定化するリスクを引き続き注視すべきである。