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RIM 環太平洋ビジネス情報 2003年10月Vol.3 No.11

韓国における銀行システム再建策とその評価
市場志向的な政府が展開した介入主義的な再建プログラム

2003年10月01日 環太平洋研究センター 高安健一


要約

  1. 1997年12月以降国際通貨基金(IMF)の管理下で展開された金融構造改革は、韓国の金融システムの安定回復に大きく寄与した。

  2. 金融構造改革は、61年に軍事政権が登場して以来の政府・財閥・銀行の関係を再構成するための取り組みでもあった。政府は、97年に財閥の倒産、そして98年に銀行の閉鎖を初めて容認し、「大馬不死(too big to fail)」政策を放棄した。政府によるコア・バンクの育成や金融持ち株会社制度を活用した金融機関の再編は、政府による経済活動への直接的な介入が難しくなるなかで、財閥をコントロールするための対抗軸を作り出すことを意図したものでもあった。

  3. 金融制度改革は97年末以降、IMFの管理下に入る前に政府が作成していた再建プログラムに沿って急ピッチで進んだ。政府は、金融改革の司令塔となる金融監督委員会(FSC)が98年4月に設立された時点で、政府組織の再編成、健全性規制の強化、早期是正措置の導入、金融改革にかかわる法制度改革などをほぼ終えていた。一連の金融制度改革は、金融機関の健全性の回復と収益力の向上のみならず、a.金融監督機関の独立性の維持、b.金融監督機関による問題先送り政策(forbearance policy)の回避なども意識して進められた。

  4. 政府は、韓国預金保険公社(KDIC)と韓国資産管理公社(KAMCO)を通じて多額の公的資金を投入することで、銀行の自己資本の増強と不良債権のオフバランス化を推進した。政府による問題金融機関への対応策は、一貫性のある原則、手続き、手法に基づいて、多くの金融機関に一斉に適用された。また、自己資本を増強するために注入された公的資金は、銀行が政府に返済するのではなく、政府所有株式の市場売却や戦略的投資家への売却によって回収される仕組みになっていることから、政府は銀行に収益力の向上を強く求めた。

  5. 政府が直接的には関与出来ない企業部門の再建は、金融部門ほどには進まなかった。政府は、5大財閥に対しては「5大原則」やビッグ・ディール政策、第6位から64位までの財閥とその他大企業については、法廷外での銀行主導による企業再建策(ワークアウト)を適用した。しかしながら、99年に大宇グループが経営破綻に陥るなど、企業部門の再建は足踏みし、金融機関にとってリスク要因となった。

  6. 韓国の97年以降の金融構造改革の特色として、政府が多額の公的資金を活用しながら直接的・間接的に介入したことを指摘出来るが、同時に政府は早期にフェイドアウトすることを意識していた。金融構造改革は肯定的に評価出来るものの、IMFが2003年3月に公表した「金融セクター評価プログラム(FSAP)」にみられるように、国際的なベスト・プラクティスと比較すると、改善すべき点が多く残されている。

  7. 韓国における第2次世界大戦後の金融構造改革の経験は、透明性の高い金融制度が構築され円滑に機能するためには、中央銀行や金融監督機関の政治からの独立性が維持され、かつ民主的な政策決定が行われることが極めて重要であることを示すものである。
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