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RIM 環太平洋ビジネス情報 2002年7月 Vol.2 No.6

タイの通貨危機は終わったか?-上場企業における過剰債務問題と財務リストラ

2002年07月01日 大泉啓一郎


タイ経済は通貨危機により未曾有の景気後退を経験した後、緩やかながら回復に向かっているが、成長路線復帰への見通しは立っていない。これは通貨危機後に積み上がった不良債権処理の遅れに加え、変化の激しい国際市場での競争力の低下に起因する。企業レベルでは、競争力強化のための事業戦略の見直しを迫られているが、通貨危機で膨らんだ過剰債務が企業のリスク許容力を低下させており、財務リストラによる過剰債務からの脱却が競争力強化の前提となっている。企業の財務リストラがどの段階にまで進んでいるのかを把握することは、タイ経済を展望する上で重要である。

そこで、本稿はタイ証券取引所(SET)が公表する上場企業の個別財務データを集計・加工し、通貨危機以降に上場企業の財務状況がいかに歪められ、それに対し政府・企業はどのように対処したかを明らかにし、その成果を検討する。

上場企業の財務状況は、従来から銀行借り入れに過度に依存したことに加え、通貨危機後の為替下落に伴う負債の急拡大、高金利政策による金利負担の増加、景気後退による収益の低下によって大きく歪められた。しかしその後は、政府・企業の財務リストラへの積極的な取り組みにより、上場企業の財務状況は改善に向かっている。その要因としては、第1に、通貨危機直後に政府が率先して抜本的な構造改革を行ったことがあげられる。破産法整備は法的整理による会社再建への道を切り開き、外資規制の緩和は、海外からの資金支援を促した。第2に、官民が協力して法廷外交渉の枠組みを策定し、債務再構築(Debt Restructuring)が進展をみたことである。元利金返済のリスケジューリング、金利の減免、債務放棄、債務の株式化などにより企業の財務負担は軽減された。第3に、金融緩和・財政出動による景気刺激策により、緩やかではあるが景気が回復に向かったことである。景気回復に伴う企業の収益構造の改善は、企業に財務リストラを推進する体力を与えた。第4に、企業自らも事業全体の見直しを含む財務リストラに努力したことである。主要企業グループは、本業(コア・ビジネス)への資源投入を強化する一方で、その他の事業(ノンコア・ビジネス)の売却を進め、財務体質の強化を図った。

これらバランスシートの調整に伴い、上場企業の収益構造は改善している。営業利益が増加したことに加え、当期利益の増減要因をみると、営業外収入の影響が低下し、金利負担の軽減や経費の削減が押し上げ要因になっていることが確認できる。上場企業における過剰債務問題は「最終局面」を迎えており、今後の課題は、財務リストラから国際競争力強化へとシフトしているといえる。

2001年半ばに国有資産管理会社(TAMC:Thai Asset Management Company)を設立し、政府が不良債権処理に直接的に乗り出したことで、上場企業以外の企業の過剰債務問題も新しい段階を迎えている。TAMCは、再建の可能性のある企業を峻別し、企業自らが経営リストラに向かうような債務再構築を行う任務を負う。またTAMCの運営が効率的になされるためには人員確保による処理能力の拡大、ガバナンス強化のための情報公開が急がれる。
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