RIM 環太平洋ビジネス情報 2002年7月Vol.2 No.6
アジアにおける公的債務管理(PDM)への取り組み
ポスト通貨危機のマクロ経済政策フレームワークの構築に向けて
2002年07月01日 環太平洋研究センター 高安健一
近年、アジアの多くの国・地域が経済制度整備への取り組みを強化している。本稿で取り上げる公的債務管理(Public Debt Management; PDM)は、ポスト通貨危機のマクロ経済政策フレームワークの重要な柱の一つである。
PDMの目的は、公的債務を抱えていることから生じるコストとリスクのトレードオフを、民間部門の手法を取り入れながら、中長期的な視点から管理することである。それは、政府部門の総合的な資産・負債管理(Asset & Liabilities Management;ALM)であり、不良債権処理コストなどの偶発債務(contingent liabilities)や、外貨建て債務を抱えていることに起因するリスクも対象に含んでいる。
PDM先進国であるニュージーランドは、公的債務残高の削減やリスク管理で実績を積み上げてきた。88年に財務省にPDM担当部署が新設されたのと同時に、連邦準備銀行との役割分担を明確にした。会計制度の現金主義から発生主義への変更、財政責任法の制定による規律の向上、財政見通しの定期的な公表などが実施された。
アジアにおいても、韓国、タイ、インドネシアのように、管理変動相場制の下で、インフレ・ターゲティング政策および公的債務管理を実施することにより、マクロ経済の安定を図ろうとする国々が現れた。マレーシア、フィリピン、中国、台湾、香港などでも、公的債務残高が急増しており、PDMへのニーズが高まっている。
97年に国際通貨基金(IMF)に金融支援を仰いだ3カ国のうち、タイでは、財務省にPDM担当部署を設置するなど体制整備に取り組んでいるものの、金融システム再建コストや国有企業への債務保証、対外債務の管理など、対応すべき課題は多い。韓国では、マクロ経済環境の好転もあり、政府の計画を上回るペースで財政再建が進んでいるが、世界銀行の支援を受けながらPDMの推進体制を整備している。インドネシアでは、国内外の公的債務が急拡大したことや、金融システム再建のためのコストが莫大な金額に達していることから、PDM推進体制の強化が緊急の課題となっている。
PDMは、日本の開発途上国への資金支援に、影響を与えることになろう。資金受け入れ国が効率的なPDMを実施するならば、供与した資金の返済可能性が高まる。他方で、資金受け入れ国にとって、円建て負債を抱えていることのリスクが高い状態(円のボラティリティが他の主要国通貨よりも大きい)が続くならば、円資金の借り入れに慎重になることも考えられる。