RIM 環太平洋ビジネス情報 2002年10月Vol.2 No.7
アジア経済危機と金融制度改革
2002年10月01日 環太平洋研究センター 高安健一
要約
- 1997年のアジア経済危機は、金融制度改革を大きく前進させる契機となった。国際通貨基金(IMF)・世銀の構造調整プログラムが適用されたタイ、インドネシア、韓国で、不良債権の処理に必要なフレームワークが構築されたのに加えて、銀行を中心とした成長志向型の金融システムから、リスク分散機能を内包した市場型の金融システムへの転換が模索されている。さらに、そうした国々では、インフレーション・ターゲティングや公的債務管理を導入することにより、変動相場制下でのマクロ経済政策にディシプリンを付与しようとしている。
- 金融制度改革の視点に立つと、IMFがアジア経済危機に際して展開した議論には説得力がある部分が多い。IMF・世銀は、加盟国の金融システムの安定化に向けた取り組みを、国際的な枠組みのなかでも展開している。90年代より、加盟国政府、国際決済銀行(BIS)、民間団体などの意見を集約し、金融システムの安定化と公的債務管理のためのガイドラインを作成してきた。前者については、IMFが加盟国に実施する4条協議(サーベイランス)にも活用されている。IMF加盟国の金融システムを診断する「金融システム評価プログラム(FSAP)」が、先進工業国、開発途上国を問わず実施されており、金融危機の防止に寄与することが期待される。
- 97年以降の金融制度改革の経験を振り返ると、構造調整プログラムが適応された国のみならず、台湾、韓国、香港、シンガポールなどでも政府主導で改革が実施された。今後の課題は、1)銀行システムに内在されているリスクの抑制、2)資本市場の育成、3)国内制度と整合性のある国際標準の導入などである。
- 日本は、長年にわたり、開発途上国に対する金融支援において、IMF・世銀を中心とする国際レジームの一員として行動してきた。日本は、自国の経験を開発途上国に移管するという発想にとどまらず、IMF・世銀が中心となって取り組んでいる金融安定化のためのガイドラインの作成や、被援助国が外部から制度を取り入れるにあたってのアドバイスなどに積極的に関与すべきである。また、金融制度改革にかかわる知的支援については、成長資金の供給という発想に加えて、金融システムの安定性、金融危機のマネジメントなどの観点からも実施すべきである。