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RIM 環太平洋ビジネス情報 2003年8月Vol.3 No.10

急増する中国の流動人口と農業・労働問題へのインパクト

2003年08月01日 今井宏


要約

  1. 2001年の農村部における就業者数は4億9,085万人と、全就業者数の3分の2強を占めた。このうち農林・水産業就業者数は3億2,451万人であった。一方、別の統計によれば、非農林・水産業就業者数は1億6,902万人で、このうち郷鎮企業の就業者が77.4%を占めた。

  2. 2001年の農村部における余剰労働者数を試算すると、1億7,112万人と、農村部就業人口の34.9%に相当する。


  3. 2000年の農村部流動労働力は1億1,340万人と推計される。97年から2000年にかけて、年平均で1,008万人増加した。農村部では、近年農業離れが進み、流動労働力が年々大幅に増加している。

  4. 流動労働力の移動先をみると、遠方への移動の割合が高まっているが、絶対数では依然近場への移動が多い。また、省外への移動の割合が年々高まっている。省外への移動の特徴を省市別にみると、a.流出は経済発展の遅れた中西部の省が多いこと、b.流入は経済発展の進んだ東部・沿海部の省市が多いこと、 c.特定の流入地と流出地との間に密接な関係がみられることが指摘出来る。また、流動労働力のうち都市部へ移動した人は7,463万人と、全体の 65.8%を占めた。

  5. 移動先での就業先を業種別にみると、従来は工業や建設業への就業が多かったが、その割合が徐々に低下し、代わって、商業・飲食業やサービス業の比重が高まりつつある。しかし、絶対数でみれば、工業が依然多い。また、男性は就業先業種が比較的分散しているのに対し、女性は工業、商業・飲食業、サービス業といった特定の業種に集中している。

  6. 流動労働力の平均年間収入額は、4,522.2元であった。一般に教育水準が高いほど収入額も高くなる。移動先別では移動先が遠方になるほど収入額が相対的に少なくなる傾向にある。男性が平均4,845.8元、女性が平均3,909.5元と、女性の収入は男性の80.7%にとどまっている。

  7. 耕地面積の狭小さなどからもともと生産性が低いことに加え、WTO加盟により農業は今後厳しい国際競争にさらされることが予想される。競争激化により作付面積が減少すれば、農業就業機会の減少につながり、農村部労働力の過剰感が一段と高まることから、農業就業者の他産業や他地域への移動が加速することになろう。さらに、流動労働力の増加を加速させる要因として、a.農村部における人口の増加、b.農村部における余剰労働力の増加、c.一人当たり耕地面積の減少、d.農村部における非農林・水産業部門の雇用吸収力の鈍化、e.地域間の所得格差の拡大、f.内陸部開発の停滞、などが挙げられる。

  8. 農村部における就業政策の課題は、巨大な余剰労働力の吸収と農家所得の向上である。しかし、この問題を一朝一夕に解決することは不可能であり、21世紀前半を通じて中国の最大の課題となることは間違いない。

  9. 流動労働力の規模は、現在でも1億人を大きく超えていることに加え、今後も年間1,000万人前後の増加が続くものとみられる。また、人口の流動化促進策も流動労働力の急増に拍車をかけるものとみられる。流動労働力の急増は、今後の労働力の需給動向に大きな影響を与えることに加え、a.農村部における就業構造の変化やそれに伴う農業の競争力の一段の低下、b.農村部潜在失業者の顕在化、c.都市部における就業圧力の上昇、d.治安の悪化や社会問題の発生、などの問題を起こしかねない。

  10. 失業問題がさらに悪化することが懸念されており、失業問題改善のためには、単なる労働政策上の対応では不十分であり、経済政策や産業政策を含めた総合的な政策の実行が必要となっている。また、農業の振興や社会保障制度の整備を進めることも必要となろう。


  11. 日本にとっては日中間の関係が基本的に相互補完関係であることを踏まえ、拡大均衡をめざすことが重要である。中国との相互依存を強めながら、国内の産業構造をいかに高度化させるかが日本のこれからの課題となろう。
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