RIM 環太平洋ビジネス情報 2003年4月Vol.3 No.9
インドネシアにおける銀行システム再建策とその評価
IMF支援プログラム下の金融制度改革 (1997~2002年)
2003年04月01日 環太平洋研究センター 高安健一
要約
- 1997年に経済危機が発生して以来、アジアの多くの国々が構造改革に取り組んできた。銀行システムの再建は、IMF(国際通貨基金)の調整プログラムにおいて、構造改革の柱として位置付けられた。本稿で取り上げるインドネシアは、IMFから支援を受けた国々のなかで、最も深刻な銀行システム危機に見舞われた。
- インドネシアでは、97年11月のIMF支援プログラムの開始直後に、大規模な銀行取り付けが発生した。しかし、その後は、98年1月の全額預金保護制度の導入と銀行システム再建に集中的に取り組むインドネシア銀行再建庁(IBRA)の設立、98年3月の銀行システム安定化プログラム、99年3月の資本増強プログラムなどの諸策が奏功し、2000年に入ると銀行システムは安定を取り戻した。2001年以降は、自己資本比率の上昇、不良債権比率の低下、収益力の改善などが鮮明になり、銀行の潜在的な資金仲介能力は回復した。2002年には、IBRA傘下の国有銀行や国営銀行の政府所有株の売却が進み始めた。
- 97年以降のインドネシアの事例は、一定の手順に従って公的資金を活用するならば、短期間のうちに銀行のバランスシートを改善出来ることを示すものである。他方、企業部門の再建が遅れており、銀行部門との同時再生は実現していない。破産法や商事裁判所などの整備の遅れによって、大企業を中心に債務再編交渉が停滞している。
- 2003年末をもってIMF支援プログラムが終了するのに備え、銀行システムの安定性維持に必要な体制整備が進められている。その中心は、中央銀行が担っている監督権限の金融監督庁(FSA)への移管、預金保険機構の新設、国際決済銀行(BIS)の基準に則した監督体制の強化、関係機関の間での円滑な政策コーディネーションなどである。
- インドネシアの事例は、危機打開に必要な経済制度を迅速に整備することの重要さを示すものである。そのためにも、IMFや世界銀行に蓄積された銀行システム危機に対応するための知的ストックを、世界の国々が有効活用出来る体制を整えておく必要がある。