RIM 環太平洋ビジネス情報 2003年4月Vol.3 No.9
日本企業のアジア事業に対するFTAの影響
2003年04月01日 環太平洋研究センター 竹内順子
要約
- 1990年代以降、自由貿易協定(FTA)の締結件数が世界的に急増している。その背景には、企業活動のグローバル化が急速に進展し、通商上の課題が多様化するなかで世界貿易機関(WTO)における多国間交渉の合意形成が、一段と難しくなっているという事情がある。その一方で、多国間交渉に比べれば合意形成が容易なFTAが、多国間協定を補完する自由化促進の手段として存在感を高めている。
- 90年代終盤から、アジアにおいてもFTAに対する関心が高まっており、二国間ベース、または、ASEAN-中国、ASEAN-日本といった地域ベースでのFTA締結に向けた動きが活発化している。その延長線上には、ASEAN+3(日本、韓国、中国)というアジアを包括する経済統合が意識されている。
- 日本企業にとって地理的に近く、成長性の高いアジアでの事業の重要度は大きい。2000年度の在アジア日系法人の売上高は、在北米日系法人の約3分の2の規模であるが、売上高の伸び率、収益率の高さは他の地域を大きく引き離している。とくに、海外法人の6割をアジアに配置する製造業にとっては、国内事業との調整も含めて、成長が期待出来るアジア事業をどのように活用していくかは大きな課題である。
- 日本企業のアジア事業は輸出入のみならず、日本の技術輸出に対する影響度を強めている。今後さらに、日本にとって投資収益の受け取りや、知的財産の対価が重要度を増していくことを考慮すれば、市場アクセスや現地における事業環境の改善を促進するFTAをアジア諸国との間で締結していくことの意義は大きい。逆に、日本のFTA交渉が遅延する一方で、アジア諸国・地域間またはアメリカ-アジア諸国間などでFTAが成立し、日本がその埒外に置かれた場合には、日本企業は、FTA締結国の企業に比べて、a.輸出条件の相対的な悪化、b.不利な関税率を回避するための生産移管にともなうコストの発生、c.投資条件の相対的な悪化、などの不利益を被る可能性がある。
- アジアを包括するFTAが成立するには、かなりの時間を要するものとみられる。しかし、FTAには企業活動に今後のビジョンを提供するというシグナルとしての側面があることも見逃せない。中国-ASEANのFTAが、どの程度、踏み込んだ内容となるかは未知数であるが、両地域の経済関係が緊密化するというビジョンを示したという点は評価される。日本を含むアジアを一体として、国境の制約が少ないビジネス圏を形成するという将来像を提示することは、長期的には、企業活動に大きな刺激を与えよう。それを単なる画餅にするか否かは、実現に向けた関係国の努力にかかっている。