Business & Economic Review 2001年07月号
【REPORT】
成年後見制度施行1年めの課題
2001年06月25日 調査部 環境・高齢社会研究センター 結城千詠
要約
平成12年4月の改正成年後見制度の施行から1年が経過した。新制度では、ノーマライゼーションの推進、判断能力低下の度合いに応じた本人の意思の尊重、事後救済から事前準備への選択肢の拡大など、新たな理念が取り入れられ、従来批判の多かった法定後見制度の画一的な側面が大きく改善された。高齢化の一層の進展が見込まれるなか、高齢期における安全な財産管理や適切な介護サービスの選択、居所の決定など様々な場面で、新しい成年後見制度が大きな役割を果たすことは間違いない。
制度施行後の利用状況をみると、平成12年4月から平成13年3月までの1年間で、後見開始(従来の禁治産宣告に相当)の審判の申立件数は、7,451件と前年の2,963件の2.5倍以上になっており、まずまずの滑り出しといえる。しかし、一部の法律家や福祉関係者を除けば、新しい制度の認知度はそれほど高くなく、一般市民からみた情報へのアクセスも良いとはいえない状況にある。施行後1年が経過し、今後解決すべき課題が少しずつみえてきたのも事実である。
立法時の理念を生かすには、後見を必要とする人が利用しやすい環境を整え制度を育てていくことが必要である。そのためには、次のような具体的方策を実施すべきである。
(1)情報提供と相談体制の充実 自治体の窓口を中核とし、市民が容易に情報を得られる相談体制を作る必要がある。家庭裁判所や職業後見人機関とも連携し、制度の仕組みの解説、具体的な手続きや費用、相談窓口などをパンフレットやポスター等で広報・啓蒙し、制度そのものの認知度を高めることが求められる。
(2)職域を越えた情報交換等の連携体制の構築 制度の円滑な利用を進めるためには、法律に明文化されていない運用上の情報を蓄積していく必要がある。そのためには、新たに創刊された成年後見専門誌などを活用して、法務、福祉、医療、金融などの各分野の専門職が職域を越えた情報交換や連携の場を作っていくべきである。
(3)能力判定センターの設立 制度の利用を希望する人の能力低下の度合いを的確に判定し、どのレベルの、どのような範囲の後見が必要であるかを見極めることが今後一層重要になっていく。各地域の家庭裁判所が地元自治体や医師らと連携し、能力判定基準を定め、能力判定センターの設立を検討すべきであろう。
(4)職業後見人の養成 身寄りのない高齢者を中心に親族以外の後見人を必要とするケースの増加が見込まれ、職業後見人に対するニーズが一層高まるものと考えられる。新制度の施行を機に司法書士会、社会福祉士会などが職業後見人の養成に着手しているが、一定の研修を終えただけで後見業務に習熟できるわけではなく、ケーススタディーなどの地道な蓄積が重要である。後見サービスの質の向上につとめ、利用者の信頼を得ていくことが求められよう。さらに、将来的には、専門職だけでなく、例えば金融実務に明るい金融機関勤務経験者を財産管理分野の職業後見人として活用していくことも検討すべきであろう。