RIM 環太平洋ビジネス情報 2003年別冊版
2002/2003年アジア主要産業の回顧と展望
統合に向かう東アジア経済と企業
2003年03月01日 環太平洋研究センター 竹内順子
要約
- 2002年のアジアの製造業
2001年に大きく落ち込んだアジア主要国の製造業の生産活動は、2002年に入って著しい回復を示した。2001年は、製造業の生産額に占めるエレクトロニクス産業の比率が大きい国ほど生産活動が大きく落ち込んだが、2002年には逆にそうした国ほど回復の度合いが高まった。輸出額も2001年9月を底に回復基調に転じた。輸出が最も好調であった国は2001年に引き続き中国であり、2002年4月以降、対前年同月比で10~30%という高い伸びを記録した。2002年通年の輸出額は前年比 22.3%増の3,225億ドルに達した。中国以外の国々の輸出も概ね好調であったが、9月以降は一部の国で鈍化の兆しがみられた。 - エレクトロニクス産業-世界的な需要低迷のなかでのアジアの輸出回復
2002年の世界のエレクトロニクス製品の販売は、携帯電話が比較的高い伸びを示したものの、パソコンや半導体が伸び悩んでおり、総じて回復の速度が鈍い。一方、2002年のアジア諸国におけるエレクトロニクス産業は生産額、輸出額ともに前年を上回り順調に推移した。ただし、中国を除くと、ITバブルが発生した2000年の水準まで回復している国は限られており、回復の過程にあるといえよう。情報機器および同部品の輸出については台湾、タイ、フィリピンが前年割れとなった一方、中国、韓国は2桁台の伸びを確保した。
中国の情報機器関連の生産額は、2年連続で大幅に増加し、2002年には日本の生産額を上回ったと推定されている。これは台湾企業の生産拡大によるところが大きい。2002年の台湾の情報機器産業の海外生産比率は63.8%に上昇した。海外生産の四分の三強が中国で行なわれており、2002年には中国における台湾企業の生産額が台湾島内の生産額を上回った。これに加えて日本企業や韓国企業も中国での生産を活発化させており、ノートパソコン、携帯電話、デジタル・カメラなどの品目で世界の生産に占める中国のシェアは著しく上昇した。その一方で中国のエレクトロニクス企業を取り巻く環境は厳しさを増しており、競争の激しい家電分野では上位企業でも利益率が低下するところが増加している。
アジアにおいては2003年入ってもパソコン、携帯電話などの増産に向けた動きが活発である。半導体やTFT-LCDなどの電子デバイスについても、韓国企業および一部の台湾企業が意欲的な投資計画を発表している。世界のエレクトロニクス製品の需要は2003年には回復のペースが速まるという見方がなされているものの、不確定要素も多い。先進国の最終製品に対する需要が伸び悩めば、アジアの輸出拡大にも限界がある。長期的には、最終製品の域内吸収力を高めることがアジア諸国の輸出の安定にとって必要であり、自由貿易協定(FTA)がその促進要因となることが期待される。 - 自動車産業-アジア最大の自動車生産国となった中国
2002年はアジアの自動車産業にとって明るい年となった。各国とも国内販売台数が増加し、マレーシアでは97年の通貨危機以前のピークを上回った。韓国、タイでは輸出は伸び悩んだものの、好調な内需に支えられて、生産台数が過去最高を記録した。さらに注目されるのが中国の生産拡大である。2002年には300万台を突破して韓国を上回り、日本を除くアジアで最大の生産国となった。特に、乗用車販売台数の増加は際立っており、中国の乗用車市場は本格的な拡大期に入ったものとみられる。世界貿易機関(WTO)に加盟したことによって、2002年には自動車についても輸入関税の引き下げや輸入枠の拡大が行われた。これに対して、国内メーカーは価格の引き下げや新型車の投入などを増やしており、市場の活性化につながった。
90年代以降、大手の国産メーカーと有力外資系企業との提携が進展したことによって、中国の自動車産業の勢力図は大きく変化している。特に、90年代後半から乗用車に関する動きが激しさを増しており、メーカー別の販売シェアも大きく変化した。2002年には主要な日本メーカーによる対中戦略の大枠が明らかとなり、今後、日本企業の中国展開も加速することが予想される。
一方、ASEANでは完成車の相互供給に向けた動きが進展している。そのなかで、長期的には完成車の生産拠点としてタイの役割が高まる可能性が高いが、現状のところ、タイの一人勝ちというよりも、域外への供給をにらんだ競争力向上のための効率化という方向性が強く出ている。タイ以外のASEANの拠点においても生産の増強が進められており、自動車関連の輸出は増大する見込みである。今後、中国との間で、こうした補完関係の構築が進められるか否かが注目される。