RIM 環太平洋ビジネス情報 2003年1月Vol.3 No.8
アジア諸国の債券市場の発展とその意義
2003年01月01日 環太平洋研究センター 清水聡
要約
- 通貨危機以前のアジア諸国において、企業は国内外の銀行からの短期中心の借り入れを主要な資金調達手段としてきた。このような金融システムには、ダブル・ミスマッチ(期間と通貨のミスマッチ)が生じやすいことや銀行融資が過度に行われやすいことなどの問題が含まれていた。
通貨危機以降、危機の再発を防ぐために資金調達手段の多様化が重視され、とくに成長の遅れた債券市場の育成が図られている。 - 債券市場の拡大は近年の世界的な傾向であるが、アジア諸国においても、通貨危機以降債券市場の拡大が顕著である。韓国やマレーシアの国内債券発行残高の対名目GDP比率は、日本とほぼ同じ水準になってきた。
これに対しタイでは、残高が増加傾向にあるもののその水準は低く、市場が低い発展段階にあるものとみられる。
これらの3カ国における債券市場拡大の背景として、
a.景気対策や銀行部門のリストラクチャリングを行う必要から財政赤字が生じ、国債発行が急増したこと。
b.銀行融資が減少し、代わりの資金調達手段として社債発行が増加したこと。
c.金利が大幅に低下したこと。d.景気回復に伴い、新規設備投資などの前向きの資金需要が出てきたこと。
e.銀行部門に依存し過ぎたことが通貨危機の原因であったとの認識から、各国において債券市場育成が重要な政策目標となり、市場整備が進められたことなどがあげられる。 - 企業の資金調達の場である社債市場の発展に影響を与える要因として、
a.発行者と投資家が十分に存在すること、
b.当局による規制が市場の発展を促進するものであること、
c.企業の情報開示、会計基準、破産法などの法的インフラが整備されていること、
d.流動性のある国債市場が存在すること
などがあげられる。
途上国ではこれらの条件が整っていないことが多く、韓国、マレーシア、タイにおいても、市場育成に様々な形で政府が関与してきた。そのことによる問題も発生しており、今後は極力市場本来の機能を生かした形での市場整備を推進する必要がある。 - これらの3カ国においては、通貨危機以降、銀行あるいはノンバンクによる融資が減少する一方、社債発行や株式市場からの資金調達が増加している。
しかし、全体の資金調達額が大幅に減少した状況が続いており、今後、資金調達額が本格的に増加すれば、銀行融資の増加と社債市場の拡大が同時にみられるものと予想される。 - 債券市場の発展によって、ダブル・ミスマッチの改善や政府・銀行・企業の関係の変化などがみられ、これらのことは通貨危機の再発防止に有効と考えられる。
また、債券市場発展の意義として、資金調達・運用方法の多様化や金融システムの改善なども重要である。アジア諸国の金融システムにとって、債券市場の整備は非常に有意義であり、市場の一層の発展が期待される。