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Business & Economic Review 2001年06月号

【REPORT】
地域経済活性化のための外資導入方策について

2001年05月25日 研究事業本部 河野俊明、研究事業本部 青田良紀


要約

外資の導入は、従来までの商取引や産業構造に対して大きな影響を与えるだけでなく、既存産業の高度化、地域経済の活性化にも有効である。外資導入の現状を見ると、地域的には東京圏に集中しており、日本全体として外資導入がもたらすメリットを享受できる状況にない。本研究では、今後、日本が全体としてバランスよく外資導入のメリットを享受し、経済を活性化していくためにとるべき方策について検討する。これまで実施されてきた外資導入方策についての評価を行うとともに、外資のニーズ等を十分に勘案した上で、その促進方策について提案することを目的とする。

近年、対日直接投資は大きく増加する傾向にあるが、諸外国と比較すると依然低い水準にあると言える。ただし、外資系企業の企業規模や出資比率が拡大する傾向にあるなど、外資の影響力が増大している状況がうかがえる。外資の対日進出形態は多様化しており、従来のグリーンフィールド投資の他に、M&Aの件数が増加している。この他にも、中小ベンチャー企業等が自らのア イデア、技術力を武器に日本に進出してくる可能性も十分にあり、それらを想定した誘致戦略が別途必要である。

外資導入がもたらす効用について、日本経済というマクロなレベルでは、(イ)新たな刺激、改革の力(異なる経営手法やビジネス形態、優秀な人材が導入されることによる刺激、日本独特の企業風土ではなし得ない改革を断行するための外圧)、(ロ)新たな産業創出への契機(国際間の人的交流促進、技術交流、技術移転等の進展等は新産業創出にとっての追い風)、(ハ)消費活動への影響(新たな魅力ある財・サービスが市場に投入されることによって、消費のスタイルが多様化)があげられる。

地域経済にとっての効用は、(イ)ビジネスチャンスの拡大(外資と地 域の企業のアライアンス等)、(ロ)税収の増加と雇用機会の創出(総じて日本企業よりも財務体質が良好な外資系企業の進出による税収増加。新工場、事業所等が設置されることによる新たな雇用機会の創出)、(ハ)地域のイメージアップがあげられる。一方、外資導入に関わる問題もある。 (イ)地域的な集積のアンバランス(メリットが首都圏に集中しており、日本全体としてメリットを享受できる構造になっていない)、(ロ)買収・投機の対象となる恐れ(外資による企業買収等の可能性を増大させ、国内経済混乱に乗じた投機的な投資、利ざや稼ぎ的な動きは国内経済にとってデメリット)等があげられる。しかし、外資の進出は、これまでクローズされ、保護されてきた日本経済がグローバル化を進める際の必然的プロセスの一つであり、問題点、デメリットを上回る効用の大きさを評価して、経済の活性化、グローバル化のために積極的に活用するべきである。そのためには、投機的な投資を排除しつつ、地域の経済にとっても十分にメリットがあるようなバランスのとれた外資導入を推進することが重要である。

既存のアンケート調査等では、外資のニーズが優遇税制等にあるように見える。しかし、日本における外資導入の状況を見るに、優遇税制よりもむしろ、国内における何らかのネットワーク(例えば取引先や提携先、人材等)の存在が日本進出の意思決定に影響しているケースが認められる。

日本では、企業誘致のための優遇措置として金融面での施策が充実しているが、各地方自治体の優遇策にはそれほど大きな差がなく、外資に対する十分なインセンティブとなっていない。諸外国では、金融面での支援に加え、職業訓練サービスやベンチャー企業等に対するインキュベート施設入居の際の賃料補助、電力会社との連携による電力料金の優遇など多様な内容のものが充実している。日本の外資導入策は、受け入れる側の事情に重きを置いた、短期的、画一的なものが多いのに対して、諸外国では、企業ニーズに合わせて、個別企業との交渉をもとに内容を決定する傾向が見られる。

今後の外資導入方策展開の方向性として、第1 には立地による具体的な効用が期待できる企業に対してのみ優遇措置を講じること、第2には企業ニーズを踏まえて多彩な優遇措置を講じるこ と、第3には外資導入を将来の地域を担うべき産業の育成策として位置付けて、地域ビジョンと合致する企業を戦略的に誘導すること、などが重要である。

具体的な外資導入策の基本スタンス として、補助金、優遇税制などの直接的な優遇策ばかりではなく、間接的な優遇策を重視するべきである。第1は土地賃貸制度を本格的に導入すること、第2には中小ベンチャー企業等をターゲットとしたオフィス環境を整備すること、第3には通信料金の優遇、第4には外資系企業従業員を対象とした職業訓練の実施、第5にはこれまで優遇策の対象となってはいなかった特許取得 支援を提案する。しかし、これらの外資導入策をより実りあるものとするためには、第1に、国や地域が連携して明確な外資誘致のためのビジョンを作成し、それに基づいた戦略的な外資導入策の展開を図ること、
第2に外資導入が地域経済にもたらす効用について地域としての理解を深めること、そして最後に、長期・安定的で、国際的にも競争力のある外資誘致機関の設置が課題となる。また、日本全体としての外資導入の効果を最大限に発揮するためには、国によるバックアップが望まれる。特に、地方自治体や民間企業のみでは対応に限界のある法律、制度等に関する各種規制緩和をさらに進めることが必要である。
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