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Business & Economic Review 2001年05月号

【POLICY PROPOSALS】
中小企業向け金融等支援策のあり方

2001年04月25日 調査部 金融・財政研究センター  菊森淳文


要約

1999年の中小企業基本法の改正により中小企業政策は市場原理をベースとした競争条件の整備、中小企業の自助努力支援へと変化している。金融支援は中小企業支援策として最も重要な施策であるが、今後はこうした考え方によって行われる。また、財投改革により、財政投融資制度の出口としての公的金融機関の貸し出しのあり方が見直されることになる。こうしたことから、中小企業向け金融が大きく変化しつつある。

中小企業が資金調達する際の決定要因としては、アベイラビリテイー(量的充足度)、コスト(与信条件)、機動性、担保・保証があげられる。中小企業にとっては、特に、資金繰りに関係しているアベイラビリテイーと機動性が重要である。金融は間接金融と直接金融に区別され、わが国の中小企業向け金融は、間接金融に大きく依存している。最近の新しい動きとして、間接金融では民間金融機関による無担保ビジネスローン、直接金融ではマザーズやナスダックジャパンでの株式による資金調達、中小企業向けローン担保証券(CLO)等の実績が積みあがりつつある。しかし、現状では、直接金融手段による資金調達の例は、対象企業、金額の点で限定されている。

中小企業金融の大半を占める間接金融は、民間金融機関と、それを補完すべき公的金融機関(民間金融機関の貸出残高の約3割)によって支えられている。中小企業向け融資を行っている公的金融機関の問題点としては、(1)公的金融機関が民間金融機関の補完の役割を必ずしも果たしていないこと、(2)公的金融機関の金利設定が硬直的であること、(3)公的金融機関が機械的に低金利資金を供給していること、(4)公的金融機関のリスク管理に問題があること、などがあげられる。

一方、民間金融機関にとっては、中小企業金融は、情報の非対称性、不完全競争、市場の欠落等により、「市場の失敗」が起こりやすい分野である。通常、民間金融機関等が経済合理的な判断に基づいて貸金(ローン)を行う場合には、信用リスクを反映したプライシングが行われるが、信用度の低い顧客は除外される。このような場合に、民業の補完として、政府系金融機関を始めとする公的機関の金融支援が必要になる。

公的金融支援には、主として政策的低金利と公的信用保証とがある。公的信用保証は、資金のアベイラビリテイーを高めるが、政策的低金利は、政府系金融機関等が直接資金を供給しない限り、アベイラビリテイーを高めることにはならない。公的信用保証は、信用補完によりリスクを小さくして金利を引き下げるものである(従ってリスク減少に伴う金利低下の幅は中小企業によって異なる)が、政策的低金利は、一定の要件を満たした中小企業に対し、一律に金利優遇を行うものである。従って、中小企業の支援策としては、あくまでも市場原理を生かした支援であること、財政面の負担が小さいこと、から公的信用保証を基本とすべきであろう。ちなみに、米英では、公的信用保証が金融支援の殆どを占めている。

財投改革は、(1)郵便貯金・年金積立金の預託の廃止(自主運用)、(2)市場原理の導入、(3)政策コスト分析の充実、を柱としている。公的金融機関は、財投改革によって、(1)民間金融機関と類似の機能を果たしている部分がますます明確になること、(2)貸付期間と貸出先の信用度に応じた金利設定が行われるようになること、(3)リスク管理手法の高度化を図るようになること、が予想されるが、(4)政府の信用力を背景とした各種リスクの負担能力が高いという点は維持されるであろう。

間接金融に傾斜している中小企業の支援を円滑にするための手段は、(1)貸出金(ローン)の証券化、(2)保証・保険機構の再構築、(3)中小企業向けコミットメントラインの設定、等があげられよう。特に証券化は、ローン債権を現金化することにより、それが出来なければ民間金融機関が実行しなかった貸出余力を増加させることが出来、貸し出しが可能になり、中小企業にとって、より円滑な資金調達ができる点でメリットがある。わが国でも東京都の中小企業向けローン担保証券(CLO)があるが、それを一歩進めてローン審査・保証の標準化を図り、タイムリーペイメント保証(中小企業からの回収が遅延した場合、公的保証機関等が行う立替払い)のような流動性補完の仕組みが導入されれば、一層流動性の高い証券化手法が可能である。

わが国の中小企業を真に活力あるものとするためには、最も重要な施策である金融支援に加えて、経営環境が激変する中で、創業・ベンチャー企業であると既存の中小企業であるとを問わず、ソフトな経営資源の支援策を充実させる必要がある。わが国でも2000年4月、中小企業指導法が改正され(中小企業支援法と改称)、都道府県等中小企業支援センターの設置、中小企業診断士制度の充実等が実施されており、米英と同様、支援のワンストップ化、民間のコンサルタント等の活用が図られるなど、ソフトな経営資源が整いつつある。今後は人生の若い段階からの経営教育等の情報提供や、中小企業を色々な角度から個別にコンサルテイングできる総合的な能力を持った官民におけるアドバイザーの養成等、内容面の充実を図っていくことが必要である。
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