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Business & Economic Review 2001年05月号

【POLICY PROPOSALS】
見直しが必要な公的年金積立金の運用方法

2001年04月25日 調査部 環境・高齢社会研究センター 西沢和彦


要約

公的年金の将来保険料に関する不確実性は多い。不確実性の主な源泉として少子高齢化の進展という人口動態の変化が注目される。しかし、1999年度末で144兆円に上る公的年金積立金の運用もまた不確実性の大きな原因である。99年財政再計算では、4.0%の予定利回りを想定しているが、例えば、運用実績が1.5%に低下しただけでも、既に実施が決まっている基礎年金部分の国庫負担比率引き上げ(3分の1から2分の1へ)による保険料引き下げの効果が消えてしまう。

2001年4月から公的年金積立金の運用方法が一変し、それまでの財務省資金運用部への全額預託から厚生労働省による全額自主運用がスタートしている。公的年金制度への信頼回復が急務であるが、現行スキームの内容と導出過程は信頼回復とはむしろ逆行している。

問題点は、大きく2つに分けられる。1つは、厚生労働省の策定した基本ポートフォリオの理論的根拠である。もう1つは、144兆円の巨額の資金を持つ年金資金運用基金が金融市場のプレイヤー足り得るのかという実際的な問題である。

第1の問題点について。基本ポートフォリオの策定の理論的根拠は現代投資理論である。しかし、より具体的に次のような問題がある。現代投資理論を用いる際の前提となる数値が現実と乖離している。公的年金制度への保険料拠出者の主体性は制限され、制度への期待も異なる。従って、他の年金制度と同列に論じることはできない。国民の金融資産選好がリスク回避的になっているなかで、積極的にリスクをとり、不確実性を高める基本ポートフォリオは国民の効用と整合的であるとは言えない。

第2の問題について。年金資金運用基金は、金融市場におけるプレイヤーとして2つの大きな制約を持っている。1つは、資金が巨額過ぎる点。もう1つは、公的資金であるという資金の性格だ。これらの制約のもとで、理論的に導かれたパフォーマンスを金融市場において追求するのにはそもそも無理がある。一方の金融市場も良い影響を受けない。

公的年金積立金の運用は、アメリカにおいてそうであるように国債に限定し、法制化することを提案する。その際、国債は、市場を流通させず、政府との相対取引とする。

国債への運用限定には次のような準備が必要である。運用利回りをはじめ現実的ではない財政再計算上の諸仮定を現実的な数値に置き換えて計算し直し、国民にシナリオを開示する。このことにより、現在提示されている将来保険料ですら楽観的であることが明らかになるものの、一方で、公的年金制度の破綻・崩壊といった極端な事態も起こらないことを定量的に示し、国民の公的年金制度への不安や経済活動における過度の機会主義を軽減する。公的年金積立金のデュレーションに合わせて超長期国債市場を整備する。年金資金運用基金の独立性を確保する。大幅な含み損を抱えていると推測される年金福祉事業団の総括を行い、処理策を提示する。厚生年金基金の代行返上に伴う積立金返上は現金に限定する。
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