Business & Economic Review 2001年04月号
ごあいさつ
2001年03月25日 社長 小井戸雅彦
この度、4月1日をもちまして、日本総合研究所とさくら総合研究所の調査部門が統合する運びとなりました。これに伴いまして、従来双方が発行しておりました調査レポートも統合・一体化し、本4月号より新たに「Japan Research Review」として、内容を一段と充実させてスタートすることといたしました。読者の皆様におかれましては、引き続きご愛顧のほどをよろしくお願い申し上げます。
さて、21世紀という新しい世紀が幕を開けたわけですが、これからの新時代に相応しい世界的秩序とは、いかなるものになるのでしょうか。周知の通り、近年におけるグローバル化の進展を背景に、内外の経済は市場経済を通じて実質的な一体化が急速に進んでいます。時価主義会計など会計基準の一体化をはじめ、銀行監督など規制・監督面でも共通のルール作りが進められており、政策・制度面での世界的統合は後戻りのできない大きな潮流となりつつあります。しかし、そうした動きは、世界経済が単一のプロトタイプやモデルに収斂することを意味する訳では決してありません。グローバル・スタンダードという言葉が使われる時、アメリカン・スタンダードこそが最良のものであり、世界はアメリカ型システムに鞘寄せされていくとの見方は、余りに一面的に過ぎるでしょう。何となれば、各国には固有の歴史・文化、風土・慣行、国民性などがあり、自由主義原理や市場経済万能論に則り、やみくもに市場開放や規制緩和等を推し進めていくことは、民主主義の基本原理に抵触するおそれがあるからです。各国経済の発展段階や歴史・文化を軽視した市場経済原理の強制に対する中国や途上国の反発は極めて強く、アングロ・サクソン型資本主義の矛盾が目立ち始めていることも事実です。さらに、人類共通の課題である地球環境問題への対応と途上国の経済発展をどのように調和させていくかは、市場経済原理を推し進めるだけでは、到底解決できない難問です。政治・経済・社会全体のシステム改革を求められているわが国にとっても、協調性、柔軟性、チームワークといった日本的システムの長所が最大限発揮されると同時に、右肩上がり経済から成熟経済かつ少子・高齢化という時代の流れにマッチした新しい日本型モデルをいかに構築していくかが問われているといえましょう。
21世紀の世界の潮流を形作るもうひとつの動きとして、IT革命というトレンドの中で、昨年来、新たなビジネス・モデルを模索するミクロの動きが内外で活発化しています。年明け以降のアメリカ経済を中心とする世界経済の減速は、今年度のわが国経済にも無視できない影響を及ぼすものと予想されます。例えば、日米株価の下落に象徴される通り、近年世界中の耳目を一身に集めてきたアメリカハイテク企業の高収益・成長神話が大きく崩れ始めています。他方で、製造業等の既存産業については、IT武装を果たした大手企業とマイクロソフト、AOL、ヤフーなどの優良ハイテク企業の提携・統合が活発化するなど、新しいビジネス・モデルを模索する動きが続いています。さらに、金融・流通業等を中心に、インフォーミディアリー(情報仲介業)と呼ばれる新しいタイプの仲介業者が続々と出現するなど、アメリカの産業構造は急速な変貌を遂げつつあります。わが国においても、マクロのパイが大きく拡大しないなかで、海外生産とディスインターミディエーション(いわゆる中抜き現象)をテコに高品質と低価格の双方を追求するユニクロをはじめとした新興企業が登場し、業界地図を大きく塗り替えようとしています。こうした新しいビジネス・モデルがどの程度普遍性・持続性を持つものかは、現時点では未知数といえますが、いずれにしても、21世紀の経済社会の有り様やビジネス・モデルは、各国・各地域ごとの歴史や風土、あるいは各企業のコア・コンピタンスに立脚した多様なモデルが並立すると考えるのが自然でしょう。多様な主体が創造的な競争を繰り広げるとともに、相互に連携・融合することによって新たな価値を創造する「共生」こそ、21世紀の世界経済の力強い発展のモメンタムを生み出す新しい秩序となるのではないでしょうか。
21世紀のIT社会においては、個人、企業、社会の相互関係が大きく変質し、消費者、生活者、従業員のそれぞれの立場で、個人の力が一段と増大することが予想されます。企業経営、行政、政治、国家のあり方もこうしたパワーアップした個人を中核に据え、新しい方向を模索していかなければなりません。例えば、商品のアイデア・企画・開発段階から消費者が中心的役割を占める「消費者中心市場」が形成されることによって、企業経営のあり方は根本的な変革を迫られます。電子政府、行政サービスの電子化も国民・住民を顧客ととらえる新たな発想転換が求められるでしょう。また、電子投票は、政治の枠組みを一変させる可能性を秘めています。さらに、インターネットの世界では、国家概念は消滅してしまうかも知れません。要するに、21世紀はドッグイヤーと呼ばれるように、変化のスピードが極めて速く、変化自体も多様性に富む時代となることが確実視されます。このような時にこそ、私どもシンクタンクは、変化の方向性を的確に見極めるとともに、変化への柔軟な対応と時代に適合したソリューションを常に世界に向かって提供していかなければならないと考えております。日本総研は、「Japan Research Review」を通じまして、的確な経済予測と大胆かつフィージビリティーの高い政策提言を二本柱に、これまで以上に付加価値の高い情報発信を続けてまいる所存でございます。引き続き読者の皆様の温かいご支援・ご鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。