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Business & Economic Review 2003年12月号

【REPORT】
「高橋財政」を踏まえたリフレ政策の検証

2003年11月25日 調査部 経済研究センター 益田郁夫


要約

  1. ここ数年、リフレ論は、インフレターゲット論や量的緩和論など金融政策を中心に議論されてきた。しかし、こうした非伝統的金融政策に対してはその実効性に対する疑問が投げかけられ、十分に支持が広がらなかったことから、最近では、ヘリコプターマネーや政府紙幣など、財政政策と金融政策を組み合わせたリフレ策が主張されるようになってきた。

  2. 過去、わが国の大規模なリフレ策の実施例として高橋財政がある。金解禁を契機に発生した昭和恐慌を克服するため、a.1931年(昭和6年)12月の金本位制からの離脱、b.翌32年3月以降の金融緩和、c.同年6月の補正予算提出とその財源として国債の日銀引き受け実施方針の表明、という順に政策が進められた。この結果、外需や政府支出を中心に需要が増加し、景気は32年半ば以降、回復に向かった。有効需要の増加と、昭和恐慌中に設備ストックの調整の進展によって需給ギャップが縮小し、デフレは終息した。その後、アメリカ景気の回復による輸出拡大や、外需と軍需の拡大を背景にした設備投資の活発化で、本格的な景気拡大局面に入った。

  3. 最近、リフレ論者のなかに、高橋財政において、日銀の国債引き受けと金融緩和によるインフレ期待の発生を高く評価する傾向がみられる。しかし、当時の景気回復の牽引役は外需と政府部門が中心であり、そのような見方は妥当とはいえない。また、当時の日銀は、市中売却を前提に国債を引き受けており、リフレ論者が実施すべきと主張する政府債務の貨幣化(マネタイゼーション)を意図していたわけではない。

  4. 昭和恐慌当時のわが国では、実体経済の悪化と物価下落がスパイラル的に続くデット・デフレーションが発生していた。そのプロセスにおいて、物価の下落は、a.企業収益の悪化を通じて、生産活動や雇用の縮小を招く点、および、b.実質金利を引き上げることで企業の債務負担感を強め、企業に一層の債務削減を強いる点で、重大な影響を及ぼす。しかし、現状では、物価の下落幅はわずかであり、また、物価と企業収益の間に明確な関連はみられない。さらに、実質金利の水準も、昭和恐慌や大恐慌時のアメリカと比べれば格段に低い。わが国で現在、デット・デフレーションが発生しているとはいえない。デット・デフレーションが発生していた昭和恐慌下では、物価下落に歯止めをかけることは景気浮揚に必要不可欠の条件であったが、現状ではそうとはいえない。

  5. 高橋のリフレ策は一定の成功をみたが、当時、以下の2点でリフレ策が効果を発揮しやすかったことを指摘出来る。第1に、金本位制からの離脱に伴い大幅な円安となったことが、輸出価格の上昇や外需の拡大を通じて国内物価の反転上昇に大きく貢献した。しかし、現在では、円安誘導策の採用は困難である。第2に、当時は、地価変動の経済への影響が比較的軽微であった。したがって、一般物価の下落に歯止めがかかるにつれ、地価の下落も収まった。しかし、今回のバブル期には、地価が一般物価に比べて大幅に上昇しており、仮に大規模なリフレ策によって一般物価を一時的にプラスにすることが出来たとしても、地価の下落が続き、景気を下押しすることが予想される。すなわち、リフレ策の効果が薄れるに従い、景気が再び悪化する可能性がある。

  6. 最近では、IT、ナノテク、バイオなど様々な分野での技術革新のフロンティアが広がり、投資機会の増加が期待出来る環境が整いつつある。すでに財政状況の悪化が著しく、政府債務の一層の拡大による影響が予測し難いことを考え合わせると、財政拡大への政策転換には慎重であるべきと考えられる。財政政策の発動は、デット・デフレーションに陥る懸念が強まった場合に限るべきである。デフレからの脱却のためには、a.行財政改革の推進によって歳出規模の拡大抑制を図る、b.現在の金融緩和姿勢を維持する、c.地価の調整の収束を待つ、というマクロ経済政策がとられるべきである。一方、ミクロ経済政策としては、規制の見直しや企業に対する研究開発支援などを推進することによって、国内の投資機会を一層高めていくことが必要である。
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