コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 2003年11月号

【POLICY PROPOSALS】
わが国産業・企業の競争力強化に向けて

2003年10月25日 藤井英彦


要約

  1. 2002年度、わが国企業は再び業績回復を果たした。しかしこれに対しては、減収傾向に歯止めが掛からないなか、人員削減など、リストラ効果を主因とする収益回復に過ぎず、わが国経済の先行きは依然不透明、とする見方も有力である。そこで本稿では、まず、企業業績と雇用動向、貿易動向の分析を通じてわが国産業・企業の国際競争力の現状に焦点を当て、それを踏まえて今後の課題についてとりまとめた。

  2. まず、企業収益について、調査対象企業の入れ替えによって相対的に連続性が断絶されやすい中小企業を除いた、中堅・大企業ベースでみると、2002年度の業績回復は、売上高が前年比増収となる一方、売上原価が一段と圧縮されたことが主因であり、人件費削減効果は二次的要因と位置付けられる。
    業種別にみると、2000年度以降の大幅な業績変動は電機製造業が主因であった。そこで、同業の業況変化についてみると、外需の伸びに支えられた販売数量の増加に加えて、液晶テレビやプラズマ・テレビに象徴される通り、製品の高付加価値化によって売上高が増加する一方、製品に組み込む部品や付加価値が高くない汎用品については積極的に安価な輸入品を活用することによって売上原価を削減し、利幅の拡大を達成したことが収益回復の原動力となっている。ちなみに、財務省の「外国貿易概況」から電気機器の主要な輸出入品目をみると、2002年にはカラーテレビ受像機の輸出額が最も増加した。そして2000年以降における単価の推移を輸入製品と対比してみると、輸入テレビがほぼ横這いで推移したのに対して、輸出テレビの単価は年を追って上昇した結果、輸出テレビの輸入テレビに対する格差は2000年の1.4倍から2002年には2.4倍に拡大している。
    以上を要すれば、2002 年度のわが国企業業績改善は、販売面で、一層強力な高付加価値化の推進を通じて販売単価の上昇を実現する一方、仕入れ面で、世界的なデフレ進行をフルに活用して売上原価のさらなる削減に成功した結果と位置付けられる。

  3. 一方、雇用情勢は、2002 年半ば以降、すでに改善傾向に転じていた。長期雇用をベースとする現行のわが国雇用システムが現下の深刻な経済停滞の一因との見方が有力であるものの、雇用流動化で先行したアメリカをみると、2000年以降、雇用の流動化がストップし、逆に、長期雇用が拡大し始める兆しがみられる。
    そもそも企業は、社内の情報コストを引き下げることで競争力を付け、事業を行う組織体である。この点に立脚すれば、長期雇用によるモラル・ハザード現象は論外としても、行き過ぎた雇用の流動化や勤続年数の短縮化は競争力をかえって低下させ、事業推進を阻害しかねない。逆にみれば、わが国企業が、今日でもアメリカ企業に比べて相対的に長期雇用が保持されている特質をいかに活用出来るかが、わが国経済・産業が再び強靭な競争力を取り戻せるか否かを分ける焦点の一つである。

  4. 対外収支は一国経済の実力を示す端的な尺度の一つである。こうした観点からみると、わが国経済は、今日でも先進各国中もっとも強力な経済といえる。もっとも、現時点で、依然として対外収支が巨額の黒字を計上していても、中国経済の急速な躍進が中期的に続く場合、わが国経済が産業空洞化の危機に陥るとの懸念を指摘する向きがある。こうした懸念が先行き不透明感にも繋がっている。
    そこで、まず中国経済躍進の持続力を予想すると、1980年代半ばのアジアNIEs と同様、経済成長や国民所得水準の上昇に伴ってわが国の高付加価値製品に対する需要が拡大し、わが国の輸出が増加する一方、中国から海外への資本流出が増加し、ハイペースの経済成長を支えてきた海外からの大幅な直接投資の効果が次第に減殺されていくと見込まれる。そのため、中国経済の躍進によるわが国経済の産業空洞化を必然視する必要はなく、むしろ、中国の経済成長のメリットがわが国経済にも均霑され、拡大均衡メカニズムが作動する公算が大きい。

  5. このようにみると、2002年度の企業業績の回復は、単に世界経済の持ち直しに伴う輸出の増加やリストラなど、一時的要因によるものではなく、むしろ、製品・サービスの高付加価値化や競争力強化に向けた企業努力が次第に実を結び、収益基盤の強化が実現されてきた結果と位置付けることが出来る。
    無論、企業動向や雇用動向についても、子細にみれば高水準の企業倒産や長期失業者の増加など、深刻な問題が残存している。しかし、そうした問題も産業の高度化や高付加価値化によって再び強靭な競争力を取り戻すことで克服することが十分に可能であると思われる。

  6. 高付加価値化や競争力強化についてみると、研究開発を通じた新産業の創出など、戦略的な経済運営や産業展開は、個別の企業努力だけでは限界があり、政策からの強力なサポートが不可欠である。こうした観点から、わが国でも、近年、TLO制度やSBIR制度の導入など、様々な施策が打ち出されてきた。しかし、総じてみると、まだいずれのシステムも力強い経済再生を実現させるまでには至っていない。これは、個別の制度は出来ても、事業化を実現出来るかどうかという観点からみると、依然として使い勝手が悪いことに集約されよう。IT革命によって経営のスピードが事業の成否を分ける重要なファクターとなるなか、機能不全の制度は企業の競争力強化への取り組みを妨げる足枷となりかねず、その結果、経済再生に向けて芽吹いた動きが頓挫する懸念も否定出来ない。
    IT革命によって技術革新のスピードが加速し、専門分野の細分化が進行する一方、市場ニーズの変化が増大し、事業の成否をあらかじめ見通すことが一段と困難になるなか、わが国産業・企業が国際競争を勝ち抜いていくためには、市場に近く、需要の変化や技術革新に即座に対応出来る多数の機関が多様な取り組みを行い、適者生存メカニズムが機能するシステムが不可欠である。すなわち競争原理の貫徹である。わが国においては、とりわけ、a.地方主権の確立、b.競争システムの整備、c.インセンティブの拡充、の3点が喫緊の課題である。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ