Business & Economic Review 2002年10月号
【POLICY PROPOSALS】
企業課税改革の在り方
2002年09月25日 調査部 経済・社会政策研究センター 西沢和彦
要約
- わが国経済の再生を図るうえで、企業活力を高め、国際競争に打ち勝つための企業努力を税制が側面から支援していくことは、極めて重要である。
- 企業課税改革に関しては、わが国の法人実効税率の水準について、a.法定実効税率は、すでに他の先進諸国並みで引き下げの余地は無いとする政府税調に対し、b.日米主要企業の個社別の連結財務諸表上の実効税率を比較し、わが国企業の水準はアメリカ企業の1.5倍に達しているとする経済産業省との間で見解の相違がある。他方、経済界や経済財政諮問会議は、法定実効税率の大幅な引き下げを主張しているが、その財源をどうするかについては、明確な言及がない。
- 日本総合研究所は、3月20日「経済再生をサポートする税制改革」と題するレポートのなかで企業活力を高める税制改革として、a.IT 投資促進税制の創設、b.研究開発投資減税の拡充、c.ベンチャー・起業支援税制の拡充を提言したが、本稿では、実効税率の引き下げを含めて企業活力を高める税制改革の具体策を提言する。
- 本稿では、まず、個別企業ごとの有価証券報告書(連結)の税効果会計に関する注記事項を分析することにより、企業の税負担の実態を解明するアプローチを試みた。分析は、日経225採用銘柄のうち金融・証券・保険を除いた206 社を対象として行った。その結果、次のような事実が判明した。
(1)法定実効税率(単純平均41.5%)よりも、企業の税負担の実感ともいえる税効果会計適用後の実効税率は、平均で46.2%と4.7%ポイント高い。
(2)当期利益計上企業168社中、税効果会計適用後の実効税率の方が法定実効税率より高い企業は、102社と6割を占めるのに対し、逆に下回る企業も66社存在する。
(3)企業が実効税率の低い国に活動拠点を移し、現地で再投資することでグループ全体の税負担を能動的に引き下げている。
(4)試験研究費に関する税額控除が十分に使われていない。
(5)繰越欠損金の控除や繰戻還付等の制度が十分でない。
(6)連結納税制度が有効に利用されれば、企業グループの税負担を下げ得る。 - 法定実効税率と個別企業の実効税率との差異の原因が、税制上の問題に起因する場合には、その歪み(ゆがみ)を是正することが企業活力向上のうえで重要である。具体的には、以下の改革を提言する。
提言1.外国税額控除の適用要件の緩和 控除余裕額・控除限度超過額の繰越期間を5年に延長、出資比率要件を現行の25 %以上から10%以上に引き下げることによって、企業の海外投資の果実を国内に還元することを促進する。
提言2.試験研究促進税制の拡充 控除率を現行の15%から20%に引き上げ、控除限度額も現行の法人税額の12 %-25 %へ引き上げる。売上高比率に応じて一定割合を控除するアメリカ型の仕組みを導入する。
提言3.繰越欠損金控除期間の延長と繰戻還付の凍結解除 繰越控除は、現行の5年から10年に延長する(その際は、アメリカ型の代替ミニマム税を導入)、繰戻還付の凍結を解除し、期間を1年から2年に延長する。
提言4.連結付加税の廃止 連結納税制度の本来の趣旨に照らせば、税収確保目的の付加税は早急に廃止すべきである。
以上の改革により、企業の実効税率は法定実効税率に近づくことが期待される。 - 現在、検討されている総務省案による法人事業税への外形標準課税導入は、黒字企業の実効税率引き下げ手段としてにわかに注目されているが、日本総合研究所が行ったシミュレーション結果によれば、総務省案は、次の点において問題がある。
(1)簡易外形課税や資本割が導入されている総務省案は、応益性を重視する本来の外形標準課税とはかけ離れた内容である。
(2)総務省案によって、黒字大企業の法定実効税率は確かに下がるが、実質的な下げ幅は0.66%とわずかであり、なお大企業偏重の負担構造が温存されている。
(3)総務省は、税収一定と説明するが、応益性を議論するのであれば、税収規模そのものが議論の対象となるはずである。
(4)資本金1,000万円未満の小規模法人の税負担が減少する一方、同1,000万円~1億円の中小企業の税負担が増大するなど、小規模法人を過度に優遇する内容である。 - 総務省案の問題点を踏まえ、日本総合研究所では以下の改革を提言する。
提言1.受益に応じた適正な負担という観点から、法人事業税の税収規模は現行の半分に圧縮する。
提言2.残りの半分は、課税標準として付加価値のみを採用する本来の外形標準課税を導入する。その際、基本税率は税収中立の観点から0.88%、資本金1,000 万円未満の小規模法人には、軽減税率0.68%を適用する。 - 日本総合研究所の改革案の結果、黒字大企業の法定実効税率は、現行の40.87%から4.16%低下し、36.71%まで低下すると試算される。なお、法人事業税が半分に圧縮されることに伴い、法人税(国税)の損金算入額が減少するため、法人税額が増加するが、その税収は、欠損金の繰越控除期間延長、繰戻還付再開、連結付加税の廃止等の財源に充当する。
- 法人事業税の圧縮によって、法人実効税率の引き下げを図るうえでの大前提は、財源の確保であるが、基本は、地方の行政サービスにかかわる受益と負担の見直しを通じた地方歳出の削減によるべきである。行政サービスの低下が容認されない場合は、地域住民の同意の下で、地方消費税の拡充によって財源確保を図る必要がある(その場合、必要な引き上げ幅は0.76%と試算)。
- OECD諸国の実効税率の平均は、31.51%(KPMG調べ)であり、中期的には、さらなる引き下げが必要である。ただし、その場合には、国と地方の税・歳出構造・財源移転システムの抜本改革、個人と企業の受益と負担の在り方の見直し、などの構造改革とセットで行うことが不可欠である。