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Business & Economic Review 2003年09月号

【REPORT】
アメリカ大恐慌とデフレーション-現代日本経済への教訓

2003年08月25日 調査部 経済研究センター 鈴木淑子



要約

  1. わが国で、デフレ克服の議論が活発化するなかで、かつて海外がデフレに陥った時の経験から教訓を引き出そうとする試みがみられる。とりわけ、1930年代のアメリカ経済については、様々な研究が行われているものの、当時の経済状況の解釈については幾通りかの見方がある。本稿では改めて30年代アメリカの経験を整理することで、日本経済へのインプリケーションを得る。

  2. 29年から33年にかけて、アメリカ経済は深刻な景気後退に見舞われ、生産、雇用、マネーが共に大幅に収縮し、その程度がかつてないほど厳しいものであったことなどから、「大恐慌」と呼ばれる。大恐慌発生の要因は、主に、需要の縮小である。当時の経済状況をみると、20年代に発展した耐久財産業で需要がほぼ一巡するなど、需要の拡大余地が小さくなっていたことから、29年半ば以降すでに生産の増勢が鈍化しつつあった。そこへ、10月に株価が暴落し、これに伴い先行き不透明感が強まったことから、需要が一挙に萎縮し景気が大幅に落ち込んだ。加えて、金融市場では銀行恐慌が発生し、これが貨幣供給の収縮を通じて景気を一段と冷え込ませた。

  3. こうしたなか、アメリカ経済は物価が持続的に下落するというデフレ状況に陥った。消費者物価は29年9月にマイナスに転じ、33年4月まで下落傾向を続けた。当時のデータをもとに経済状況の因果関係をみると、「生産の落ち込み→需給の緩和に伴う物価の下」という形でデフレが進んでいたところへ銀行恐慌が発生し、これが一段の景気悪化、ひいてはデフレ圧力をもたらしたことが窺われる。

  4. 大恐慌は、33年3月、ルーズベルト大統領が就任して程なく終息した。ルーズベルト政権は、物価の引き上げや失業者の救済を目的として、ニューディール政策と呼ばれる大規模なリフレ策を打ち出し、これが、デフレから脱却の契機となった。すなわち、a.ドルの減価を端緒とする農産物価格の上昇を受けた農業部門の購買力の高まり、b.資本ストック調整の進展、c.マネーサプライの下げ止まりと物価の上昇期待の高まりを映じた実質金利の低下、d.ルーズベルト政権の積極的な政策対応による期待の高まり、などを受けて需要が拡大し、これが物価の押し上げ圧力となった。

  5. こうしてアメリカ景気は33年以降持ち直し始め、同時にデフレも解消していった。もっとも、29~32年の落ち込みが急激であったため、生産は引き続き29 年の水準を下回ったほか、労働市場では高失業が続くなど、完全雇用には程遠い状況がしばらく持続した。

  6. 以上を踏まえて、日本経済へのインプリケーションをまとめると、以下の通りである。

    a.日本では、デフレ脱却の手段として、金融政策に関する議論が盛んに行われている。しかし、アメリカの経験をみると、デフレからの脱却に寄与したのは金融政策よりも、むしろ金本位制からの離脱や、期待の創出を受けた需要の拡大であった。アメリカの経験を踏まえれば、日本経済のデフレ解消についても、金融政策のみに固執せず、それ以外の手段にも目を向けることが必要である。

    b.33年、アメリカでは物価・生産が揃って急回復したものの、その後も完全雇用には及ばない状況が続いた。こうしたことから、景気の本格回復は軍需産業の台頭を待たねばならなかったとする見方もある。現在の日本では、デフレそのものが問題視されているが、アメリカの経験を踏まえれば、デフレの解消が問題の根本的な解決ではなく、より重要なことは、新産業の創出などによる経済の活性化である。

    c.ニューディール政策により、政府支出のGDPに占める割合は4.5%(29~32年の平均)から9.5%(33~36年の平均)へ急拡大したものの、それでも現在(19.3%(2002年度))の約半分に過ぎない。このため、ニューディール政策が景気刺激策として有効であったかどうかについては、疑問視する見方が多い。しかし、ニューディール政策によって多くの対策を一度に打ち出すという政府の真摯な対応が、人々の期待に働きかけ、これがアメリカ経済の回復を促した公算は大きい。現在の日本では、名目ゼロ金利が続くなか、金利を通じた需要の拡大が見込み難いほか、為替調整も困難であるなど、当時のアメリカとは状況が異なり、政策手段が制約されている。アメリカの経験は、政府がリーダーシップをとって問題に立ち向かうことの重要性を示唆している。


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